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2007年5月 アーカイブ

2007年5月 3日

マギル卿最後の旅(Sir John Magill's Last Journey)

クロフツ1930年の作品です。

人絹とリンネルの混紡の発明を実現するため、
息子の経営する紡績工場のあるベルファストへ向かう途中、
消息を絶ったジョン・マギル卿。
安否を気遣い、警察に届け出た息子のマルカム邸の敷地内で、
ジョン卿の遺体が見つかります。
ジョン卿の遺産を目当てにした殺人ではないかと目されるも、
遺産相続の恩恵にあずかる当人達には、アリバイが……。

ということで、クロフツといえばアリバイ崩し。そして鉄道です。

今までは、英仏海峡の話ばかりを読んできましたが
今回は、ロンドン在住のジョン卿が、息子の元へ訪ねる途中
イングランド~スコットランド間で消息を断ち、
そして遺体が見つかったのが北アイルランドのベルファスト、
ということで、いつもとは逆の方角で起きた事件ということに。

この事件のフレンチ警部の苦労ときたら、
なんともいえない、たいへんなものがありました。
みえない糸口を手繰り寄せるその努力。
やってもやっても終わりの見えない仕事に携わっているときの
気分にとても似ています。
それに、この事件はスコットランド・ヤードの管轄ではないと
思っていたのに、アルスター警察サイドは
「ロンドンの住民が殺されたんだから、これはそっちの管轄」
と譲らず、乗り気ではない仕事…しかもものすごく大変な案件に
取り掛からざるを得ない憂鬱さ。

ああー、つらいね~。すごくよくわかるよフレンチさん…。
読んでいても、そのつらさ、実感しました。
そもそも物語として長いし。「樽」並に長いし。

そのつらさを乗り越えたからでしょうか。ラストの2章は感動的です。
もう一度読もうかな~、と思いました。

ところで、本筋とは関係ありませんし、個人的な好みですが
わたしは「スコットランド・ヤード」を「ロンドン警視庁」というのは
あまり好きではありません。
この本を訳した橋本さんは、なるべく平易な日本語に置き換えるように
尽力されたと思いますが、できれば「警視庁」は「ヤード」と表記して、
雰囲気を大事にしてほしかったなぁと、ちょっぴり思いました。
これまでの翻訳では、ハヤカワ版の新訳「樽」と「クロイドン」の加賀山卓朗さん、
そして「ポンスン」「英仏海峡」の井上勇さんの言葉使いが好みです。
特に加賀山さんは素晴らしく洗練されてると思います。
…と、全くの余談でした。


マギル卿最後の旅
F.W. クロフツ:著 橋本 福夫:訳
4488106080

2007年5月 9日

黒いトランク

鮎川哲也のデビュー作です。
デビュー作といっても、それまでも別のペンネームで
すでにデビューしていて、活字にもなっていましたが、
「万年新人だった」と本人が称する状況が続いていたそうです。

「黒いトランク」は、クロフツの「樽」の孫のような作品です。
書き始めのきっかけは、横溝正史の「蝶々殺人事件」(のあとがき)
からヒントを得た、とありました。
が、緻密な捜査や、ひとつひとつアリバイを崩してゆく手腕は
正史というよりもクロフツ。
親よりも祖父に似てしまった孫、といったところでしょうか。

ここで描かれる事件は、汐留駅に届いた黒いトランクが
異臭を放っていたらめ、中身を検めたところ、一人の男の
腐乱死体が入っていたことから端を発します。
死体をなにかに詰めて発送する…ああ、まさにクロフツの「樽」を、
そして正史の「蝶々殺人事件」を髣髴とさせるではありませんか!

ところで、この「黒いトランク」は、現在
光文社文庫版と創元文庫版の二種類がありますが、
前者は講談社の初刊版、後者は数多く存在する改稿版の最終的な形です。
わたしはそんな予備知識もなかったため、
どっちがいいだろうかと書店で手にして迷い、
口絵に生原稿の写真が載っていた光文社版を手にしました。

光文社版の巻末には、改稿についても言及がありました。
また、この作品が世に出た経緯を鮎川本人が書き綴った文章が
2つ載せてあり、理解の助けになりました。
そして、「トリック図解」これがよくできてます!
読み終わってから見ると、うおお~~~と目からウロコが。
こういう資料性の高さは、やはり光文社。楽しかったです。

内容に関する感想ですが、正直、ラストがちょっと物足りなかった。
こつこつアリバイを崩してゆく旅を、鬼貫と共に読者もしてるので
やはりラストにはカタルシスがほしいかも~と思いました。
それから、殺害の動機はともかく、ああまでややこしい
トランクのトリックをわざわざ仕込んだ犯人の心理が、
あとから取ってつけたような印象がしました。

それから、この作品にはアリバイ崩しだけではなく、
戦争や、弱いものへの暴力に対する(憎しみに近い)感情が印象的です。
あの時代の作家達…いえ、作家に限らないですね、人々の、
戦争に対する感情は、想像を絶するものがあるように感じました。
これは、江戸川乱歩の「探偵小説四十年」を読んでも、
そこかしこにちらほらと読み取ることができます。
乱歩の場合は、鮎川に比べるともっと淡々としていますが、
根底は同じように苦々しいものがあったのではないかと察しました。

…と、ここは戦争論を述べるブログではありませんので
本題に戻りますが、ここまで感想の文章を長々と書いているのは
この話がとてもとても面白かったからにほかなりません。
謎解きのヒントになるようなことは、ここでは触れないようにしたつもりです。
ぜひ、ご一読を! 素晴らしいです。

●初刊本の復刻
黒いトランク 鬼貫警部事件簿―鮎川哲也コレクション
鮎川 哲也
光文社版


●最終版の復刻
黒いトランク
鮎川 哲也
4488403034

2007年5月12日

落とし穴

杉本苑子さん1996年の作品です。

鎌倉釈迦堂で、貧者にほどこしを与える慈善活動を行っている
僧侶達を描いたオムニバスです。
お坊さんが出てきますが、清廉潔白な人はいなくて、かなり人間臭いです。

テーマになっている「ボランティア」。
この「美しい行為」の矛盾点について鋭く指摘しています。
あとがきで、忍性らの活動が結局消滅してしまったことが
追加されているのも切ないです。
「持続しなかった」ということは、その思想に綻びがあった、
ということなのでしょう。

「正義」とされることが全て正しいとは限らないんだなぁ…
などなど思ったりしました。
現代のNGO/NPOを見て感じる居心地の悪さはこれだったのかと…。

表紙が地味なので損してる気がしますが、とてもよい本です。オススメです。

落とし穴―鎌倉釈迦堂の僧たち
杉本 苑子
4569579434

花岡ちゃんの夏休み

花岡ちゃんの夏休み

花岡ちゃんシリーズは、わたしが小~中学生の頃に
りぼんに掲載されていた、清原なつのさんの漫画です。
(写真はRMC表紙です)

大学生に憧れました!
タバコに憧れ、新歓コンパに憧れ、人生哲学に憧れました。
人生とは何か。何のために人は生きるのか。
そんなことをずっと問い続ける花岡ちゃん。
何のために生きるか、課題が提示されていたら
その通りに生きるつもりなの?
さらりとその「答え」を提示し、だから私は恋に生きるのよ、と
軽く流してしまう才媛・笹川華子さん。

わたしにとっての「大学生」とは花岡ちゃんであり、
つるっぱげの簑島さんであり、才女で美女の華子さんでした。
結果的に大学に行かなかったので、今も私の中で
花岡ちゃんはまぶしい存在であり続けます。


清原なつのといえば、「真珠とり」3部作など
SF的な発想でも有名なせいか、彼女のコミックは
なんとハヤカワから読むことができます。
「花岡ちゃん」シリーズも入手可です。素晴らしい!
(ただし、「き●がい」など、多少の表現コードが削除されてるらしいです)

花岡ちゃんの夏休み 文庫版
花岡ちゃんの夏休み
清原 なつの
4150308403

2007年5月13日

流星ワゴン

流星ワゴン
(上図はManyo「文学山房」連載で「流星ワゴン」をモチーフに描いたものです)

重松清さんの「流星ワゴン」です。
とても面白い展開に、ページをめくる手が止まりませんでした。
重松さんは、「自分が親になったから書けた作品」と
あとがきにものこしていますが、
これは、重松さんが『渦中の人』であり、
渦中の人が、自分自身と重ね合わせて描いているから感動的であり、
身につまされるし、リアルなんだと感じました。

「流星ワゴン」は、男性作家らしい作品の典型なのかもしれません。
キャラクターも魅力的です。特にチュウさん、ステキです。
読んでよかった。いい友達に会えたような感じです。
何度か繰り返し読んでは泣いてしまいます。

重松さん。泣ける作家です。

流星ワゴン
重松 清
406274998X

探偵小説四十年

江戸川乱歩「探偵小説四十年」です。
光文社文庫から上下巻で発売されています。

上巻は、戦前の探偵小説家のことや当時の文壇、
そして海外探偵文学も含めた、
乱歩らを取り巻く状況が非常に面白かったです。

アナログとか、デジタルとか、紙とか、WEBとか、
ランクや棲み分けをしている今の状況と、
当時の文壇とか大衆派とか、本格派とか変格派とかの議論に
なんだかとっても似ていて興味深かったです。

個人的には、乱歩が久作の死を大変悼んでいるのが随所にみれて
これは久作ファンとして嬉しい所でした。

そして下巻は、資料が1/3くらい取っているので、短めです。
戦時中の記録は、内田百間「東京焼盡」を思わせるところがありました。

戦争は嫌だけれど、置かれた状況は受け容れざるを得ない姿勢。
ここは共通している気がします。
昼夜逆転の生活が改まった、というのも同じ。
作家はどうやら同じような生活をしていたようです。

ただ、百間先生と大きく違うのは、乱歩は隣組などに積極的に参加して、
なんと厭人病が治ってしまった点。

上下巻を通して思ったのは、乱歩は自分で納得のいく作品が
ほとんど書けなかった人のようで、全く自身の創作活動を評価しません。
これは、「謙遜している」といったレベルではなく、
本当に自分に嫌気が差しているようでした。
とはいえ、探偵小説界の重鎮であることに変わりはなく、
そう見られていることは受け容れている。
褒められることも大好きで、切り抜き記事を全部取っておいてある。

どうにも一癖ふた癖あるお人のようだと思いました。


江戸川乱歩全集 第29巻 探偵小説四十年(下)
江戸川 乱歩
4334740235

探偵小説四十年〈上〉―江戸川乱歩全集〈第28巻〉
江戸川 乱歩
433474009X

2007年5月15日

スターヴェルの悲劇(Inspector French and the Starvel Tragedy)

クロフツの1927年の作品です。

ちょっと今までのクロフツとは一味違う!と思いました。
ドラマチックな要素が多いから?とも思ったのですが、
アリバイ崩しがないじゃないですか!
これは珍しい。

そして、ラストがビックリしました。いや、臭いとは思っていたけど
うむむ、そういう展開かー!、と。

この本の巻末には、「クロフツ談義」が載っていて
なんだよぅ、そんなにクロフツって退屈かよー、と思うような
意見もあったのですが、そんな中、紀田順一郎氏の意見に同感でした。

紀田氏は、クロフツを「一作一作、工夫したあとが見られる作家」と評し、
その遍歴からクロフツの心理の推移を推理して見せ、
「この人はどうやってこんな小説を書いたのだろう」と
興味を抱くも、ほとんど知られていないことに驚く、とありました。

この巻末の付録も併せて「スターヴェルの悲劇」を読むと
クロフツがこれまで積み上げてきたものから、
工夫を凝らして新しい面を開拓しようとした点が
感じられる気がしました。

クロフツは、とても真面目な作家だなぁと思います。


スターヴェルの悲劇
F.W. クロフツ 大庭 忠男
4488106307

2007年5月20日

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?(Do Androids Dream of Electric Sheep?)

映画「ブレードランナー」の原作としても名高い、
フィリップ・K・ディックの1968年作品です。
翻訳は、かの浅倉久志さん。

「訳者あとがき」で浅倉さんが太鼓判を押していましたが
この言葉に偽りなしの名作! 息をつかせぬ展開でした。

わたしが受け入れられるタイプのSFといえば
ヴォネガットやブラッドベリといった類でした。
ハードSFは言葉使いが難解なだけでなく、その世界観への
感情移入(あっ!「電気羊」のキーワード!!)が
なかなかできなくて、うーん、わたしはあんまり
SFって好きじゃないのかしら…と自信を失っていましたが
それは間違いだった、と気づきました。

第3次世界大戦がおわって、放射能に汚染されきって
荒廃してしまった地球では、生きている動物を
飼うことがステイタスになっています。
以前飼っていた、ホンモノの羊が破傷風で死んでしまい、
その代わりに電気羊を飼っているリックは
隣人が飼っている馬を見て、どうしても生きている動物が
ほしくてたまりません。
火星から逃亡している8人のアンドロイドを仕留めれば
賞金が入り、憧れている動物を買うことができる…。

…動機はいたってシリアスなはずなのですが、
あらすじにしてしまうとなんともチープな印象。
この物語が「打ち解けやすい」のは、そういう設定に
あるのかもしれません。

そして、登場するお尋ね者となっているアンドロイドたちは
みんな魅力的です。
アンドロイドをつとめて「それ」と呼ぶことにしているリックの
気持ちがぐらぐらと揺らいでいき、生きていることとそうでないことの
価値観の境目がわからなくなってくる様子が圧巻でした。
サブストーリー的に登場してくるイジドアが、リックの追求劇に
絡んでくる描写は美しい展開でしたし、
途中で、状況がひっくり返されるような描写があり、
めくらましにあっているような錯覚を覚えます。

ラストシーンは、まさに映画のようです。
あ。映画化されてるんだった。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
フィリップ・K・ディック 浅倉 久志
4150102295

2007年5月22日

関税品はありませんか?(Anything to Declare?)

クロフツ最後の作品です。
1957年3月にこの本が発表されて、その翌月に息を引き取ったそうです。

「クロイドン」と並ぶ、倒叙ミステリです。
倒叙形式というのは、犯人目線で事件を追ったもの。
謎解きのオモシロさが半減するのでは?と思いがちですが、
よほどの悪党でない限り、犯罪のために犯罪は起こさないわけです。
もともとは平凡な人間が、いかにして犯罪者となり
罪を重ねてしまうのかが描かれている点で、
緊張感がこちらにも伝わってきて
普通の推理モノ以上にハラハラします。

この「関税品」では、前半は犯罪者目線で物語がすすみます。
前半ラストで、「さすがに気性のしっかりした彼も、
気が遠くなるような気がしたのだった」とありますが、
読んでいて、まさに自分も気が遠くなるような思いがしました。
ここがひとつのクライマックス。

後半はフレンチ警視(なんと警視に昇進!)目線で
事件を追い詰めていくさまが描かれています。
これでクライマックスか!と思ったあとに、もうひとつ
さらなるクライマックスがあり、なかなか簡単に事件は解決しません。

クロフツの長編にしては短い方なのですが、
構成の緻密さは、なかなか群を抜いているように感じました。
そして、ミステリでは後回しになりがちな文学的な要素…
人物の描写が、とても豊かに感じました。
丁寧に描かれた作品だと思います。

クロフツ作品の中では、「樽」「ポンスン」「クロイドン」
と並ぶ名作と言ってよいのでは…と思いました。

関税品はありませんか?
F.W.クロフツ:著/島田 三蔵:訳
4150736014

関税品はありませんか?

2007年5月28日

ぼくがカンガルーに出会ったころ

浅倉久志さんといえばヴォネガットの翻訳で
伊藤典夫さんと並ぶ「おなじみの方」です。
いや、日本のSF界にはなくてはならない存在というか、
逆に言うと、名作といわれている海外SF小説の翻訳の
かなりの割合を占めているスゴイ人と言っても過言ではないでしょう。

いつも「訳者あとがき」で見せる、謙虚で人懐こく、
暖かな視点をもったこの翻訳家のおじさんは、
やっぱりエッセイを書かせても優しさとユーモアに満ちています。

巻末には、2005年までの翻訳リスト(ものすごい膨大!)が載っています。
こんなに膨大な作品を訳しているのに、海外旅行の経験が一度もないなんて…。
そして何よりも未だに第一線でご活躍ということに、もう脱帽です。

余談ですが、わたしが読んだ浅倉さんの最新翻訳は、
新潮社の「yomyom」に載っていた
ヴォネガット「キヴォーキアン博士」の抄訳だと思います。
(ぜひとも浅倉訳で単行本になって欲しい~!)

ああ、それにしても、SFっていいなぁーと思いました。
ずっとお元気で素晴らしい翻訳を続けてください。
プーティーウィッ。

ぼくがカンガルーに出会ったころ
浅倉 久志
4336047766

本陣殺人事件

終戦を告げる玉音放送を聴きながら、
「さあ、これからだ」と意気込んだ逸話があまりにも有名な、
横溝正史戦後第一作です。

戦時中、かの作家がいかに抑制され続けてきたかが
わかる描写が、随所に織り込まれています。
探偵小説に対する愛情が、そこかしこにほとばしっている、
横溝正史の傑作のひとつ。

こういう作品は、一生に一度しか書く機会ってないんじゃないかな。
社会情勢や、作家の年齢、好奇心の高まり、成熟の手前。
みずみずしさに溢れています。
「書く喜び」に満ちていると思いました。


本陣殺人事件
横溝 正史
本陣殺人事件
角川文庫版です。
おなじみの中島河太郎さんの解説が、なぜか新装版になってから
収録されなくなったので(権利の問題?ぜひ再録して欲しいものです…!)
この作品が描かれた背景などが理解しづらいかな。
純粋に作品だけを楽しむ向きの方には、逆にいいのかもしれません。
(わたしは解説好きなので、物足りないっす…)

横溝正史自選集〈1〉本陣殺人事件/蝶々殺人事件
横溝 正史
488293308X

こちらは出版芸術社版。豪華ハードカバー!!
作品が発表された当時の正史の随筆などが読めるので理解が深まります。
同時期に書かれていた「蝶々殺人事件」と一緒に収録されています。
ただ、「探偵小説五十年」とか持ってる人には重複してるからなぁ…
うーん。余裕があるときに揃えたい。

余談ですが、「手毬歌」だったかどの本だったか失念したけど、
ご子息インタビューが載ってます。

2007年5月31日

憎悪の化石

鮎川哲也の1959年の作品です。

「黒いトランク」では容疑者少なすぎない!?と
思ったりしましたが、今回は容疑者が1ダース!
しかも、最初の捜査は、熱海署の警部たちで、途中から
警視庁にバトンが渡されます。

とにかく、登場人物が多いです。
が、その煩雑さを感じさせない筆の力。これはすごいなぁ。
しかも、目されていた殺人の動機が二展三展し、
予想をどんどん裏切る展開が気持ちいい!
とても面白かったです。

前半は、熱海署の警部たちが懸命に捜査をしますが、
後半になって鬼貫&丹那コンビにバトンが渡されます。

読者は、彼らと一緒に捜査の旅に出ますが、
凡人探偵と一緒に旅をするこの感じは、
やはりクロフツを髣髴とさせると言われても
それは否定しなくてもよいのでは…と思います。
鮎川の場合、さらに日本人作家らしさがあいまって、
情緒溢れる作品になっています。

その情緒に色を添えているのが、文章の美しさだと思います。
ときどき垣間見せるペダントリーな描写も鼻につくことなく
ミステリ色に染まりかけた世界をふわりと知的に彩っています。

いやー、面白かったです。とてもとてもよかった!
タイトルもいいですね。


憎悪の化石
鮎川 哲也
4488403050

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