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2007年6月 アーカイブ

2007年6月 3日

どんがらがん(Bumberboom)

河出書房新社「奇想コレクション」アヴラム・ディヴィッドスンの巻。
編者は「ハサミ男」の殊能将之氏です。

内容は、まさに奇想と呼ぶにふさわしい短編が16個。
その中でも「ナイルの水源」にやられました。
不条理とリアリティが渾然一体となっている世界観。
こういうのを読みたかったんだよーと思いました。

まさに文学でしか成し得ない世界です。

こういういい方は、本来いけないのかもしれないですが、
洋風内田百間、という読後感を持ちました。
「冥途」「東京日記」をデイヴィッドスンに読ませたかった!
星新一とともに内田百間もF&SF誌で紹介してほしかった!!

余談ですが、「どんがらがん」収録作品のうち、
半数近くの翻訳を浅倉久志氏が手がけているのも
ファンとしては嬉しかったです。

ちなみに、この奇想コレクションには、キルゴア・トラウトの
モデルとなった(らしい)シオドア・スタージョンが2冊出ているのです。
その上、編訳者はかの大森望氏。これは外せまい!
ということで、次に読む奇想コレクションの予定はスタージョンです。


どんがらがん
アヴラム・デイヴィッドスン:著/殊能 将之:編
4309621872

2007年6月 4日

星を継ぐもの(Inherit the Stars)

ジェイムズ・P・ホーガン、1977年の作品です。Zガンダムではありません。
多くの方からお勧めいただきましたが、本格的なSFを初めて面白いと思いました。
(ヴォネガットもSFの範疇なんだろうけど…)

評判のように、確かにミステリとSFがまじったような構成かもしれません。
ですが、推理小説というのは、あくまでも常識の範囲内で推定できる
事柄を積み上げてあるものだけれど、これはあまりにも知らない世界です。
なので、純粋に物語を追う事に専念しました。

この物語は、理論的な物事が積み重ねられてゆき
その過程が延々と綴られている形式をとっていますが、
解決の糸口を見つけたハントの描写は、これまでの現実的で
息苦しいほどに難解な描写とは対照的にドラマチック!
このコントラストを描きたいがための描写だったのかと思うくらい
すごくいいシーンでした。感動しました。

続編は、「ガニメデの優しい巨人」と「巨人たちの星」です。


星を継ぐもの
ジェイムズ・P・ホーガン:著/池 央耿:訳
448866301X

ガニメデの優しい巨人(The Gentle Giants of Ganymede)

「星を継ぐもの」の続編です。1978年。

手放しで感動しました!
人類が乗り越えてきた、果てしなく壮絶で苦々しささえ感じる
暗い歴史へのあたたかなまなざし、平和への渇望。
情感豊かなガニメアンたちとの邂逅は感動的です。

この物語が描かれた時代が1978年とは思えないほど、
テクノロジーの描写に違和感がありません。
また、謎の解明の一端を担っている、バイオテクノロジーに関する
描写のどこまでがフィクションなのか、線引きがわからない!
そのくらい、よくできています。
翻訳した池さんの手腕も見事だと思います。

実は、一作目を読み終えて、この本に着手するまで
半年くらいブランクがありました。
確かに「星を継ぐもの」は面白かったし、感動しましたが
描写が難しくて、結構読むのが大変でした。
ああー、ちょっと休憩したいとおもい、ついつい
ミステリばっかり読んでしまい、長い間手をつけなかったのですが
なんですぐ読まなかったんだろう!と思いました。

これは全人類必読ではないでしょうか?
愛がそこには、あふれています。


ガニメデの優しい巨人
ジェイムズ・P・ホーガン:著/池 央耿:訳
ガニメデの優しい巨人

2007年6月11日

たったひとつの冴えたやりかた(The Starry Rift)

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの遺作であり、
代表作のひとつです。1986年。
「The Starry Rift」を直訳せず、邦題に
「たったひとつの冴えたやりかた」を選んだセンスはスゴイ。

異性人の描写と、ヒューマンとの交流のいろいろ、
よくできてるなぁと思いました。表題作のラストは切ない。
たったひとつの冴えたやりかた、ほかに手はなかったのか
と思わないではいられない。

ただ、全体的にSF描写がちょっと嘘っぽい印象がしました。
ホーガンを読んだあとだったから、
なおさらそこが気になったのかもしれないです。
それもあって、素直に泣けなかったなぁ…。
出来としては第3話の「衝突」が一番良かった。

それにしても、死がモチーフとして描かれているのは、
ティプトリーの衝撃的な最期のせい
(寝たきりの夫を射殺して、自身も自殺した)
だったのだろうかと、ちょっと深読みしてしまいました。

…で。ここに一番文句を言いたい。
挿絵は、いらんっ!!!!
描きすぎなんだよね、ディティールを。
イマジネーションの妨げになると思った。
川原由美子氏の漫画は嫌いじゃないけど、
小説の挿画には向かないと思った。
いや、そうではなく、こういう挿絵の入っている小説は
わたしには向かない、ということなのでしょう。
この絵がきっかけで本を手に取った人もいるようなので
否定ばかりしてはいけないのかもしれない。


たったひとつの冴えたやりかた
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア:著/浅倉 久志:訳
4150107394

2007年6月15日

クロイドン発12時30分(The 12:30 from Croydon)

「倒叙(とうじょ)ミステリのルーツ」といわれるクロフツの名前は
横溝正史が自叙伝の中で何度か紹介していたので、
新装版が出たときに、これは!と迷わず手に取りました。

倒叙というのは、犯罪者目線で描いたもので、
コロンボなどはその形を取っています。

チャールズ目線で、はらはらしながら読んだのですが、
裁判のくだりからは、陪審員制度の怖さが強く印象に残りました。
おそらく、この作品が発表されていた時代と現代とでは、
犯罪に対する見方や価値観に違いがあるのだろうとは思いますが…。
フレンチ警部の謎解きのラストは、実にあっけらかんと
紳士的に描かれています。だからなおさら怖かった。

本来小心者で、ちょっと自己中心的で見栄っ張りだけれど
周囲への気遣いも忘れない、ごくごく普通の一市民、チャールズ。
そんな彼が、どうしようもなく追い詰められた時の苦しみが
痛いほど伝わってきました。
経営難、不況、仕事と恋、そして恐ろしい計画のことで
悩み苦しむチャールズの姿は、ラストで感じた「価値観の違い」とは対照的で、
21世紀に生きるわたしたちにとても似ているように思います。

新装版の翻訳は、「樽」の加賀山さん。
創元版と読み比べていないのでなんともいえませんが、
洗練されていてダントツに読みやすいという評がありましたが
納得です。美しい日本語です。

クロイドン発12時30分
F.W. クロフツ Freeman Wills Crofts 加賀山 卓朗
4150736057

百鬼園日記帖

「百鬼園日記帖」とは、若き日の百間先生の日記で、
大正時代の日記を、昭和になってから出版したものです。

そこには、いろんな家庭の雑事のために心乱され、
仕事がまったくはかどらない様がありありと描写されています。
士官学校教師をしていた百間先生は、自宅に戻ったら
依頼された翻訳をしなくてはならないのに、全然はかどりません。
家族が交代で風邪を引いたり、病気になったり、
友人の身内に不幸があって、その相談に乗らなくてはいけなかったり、
気持ちが乗らなかったり、などなど。

それで、なんだかんだで仕事が押してしまい、
翻訳の仕事をくれた人に対し、だんだん後ろめたさが募ってきます。
その切迫した描写は、自宅で仕事をしている人であれば
泣けるくらい共感を呼ぶのではないかと思います。

それにしても29歳にしてこの文章力。すばらしいです。
…29歳にしてこの借金地獄はどうかと思いますが。

なお、講談社版の全集の第3巻に収録されているものを
わたしは手にしておりますが、現在は
ちくま文庫で入手ができます。
旧かなにこだわる方は、古本をあたってみてください。

百鬼園日記帖―内田百間集成〈20〉
内田 百間
4480039007

血族

血族
(写真は、初版版の函表紙。現在は文庫ででてるようです)

山口瞳ってあんまり好きではありません。
この作家は、とてもあまのじゃくだとおもいます。
それに、非常に男性的な視点を持つ人だとも。
そこがどうも鼻につくのです。
鼻につくのだけれど、「血族」は本当に面白かった。
好きな作家であっても好きになれない作品があるのと同じように、
好きな作家ではないのに、面白く読める作品があるのかもしれない。

なにがそんなにわたしを惹きつけたのでしょうか。
「血族」は、郷里を離れて暮らす人には
心情的に共感する点が多い作品ではないかと思うのです。
この本を読んでいた2005年5月に伯母が亡くなり、
愛知県の片田舎に行きました。
親族と会って話したり、懐かしい郷里を訪ねている間中、
ちょうど山口瞳が柏木田を訪れるくだりを
脳内でずっと反芻していた、と日記には残っていました。

境遇は人それぞれであるし、時代も違うから
この作家と私自身とがオーバーラップするということはありません。
ですが、長い年月を経て蓄積された隔たりというものが、
そこには共通して流れてはいないでしょうか。
たとえば、言葉。
その地方に暮らす人と、長らく地域から遠く離れた者とでは、
もうその語る方言は別のものになっています。
都会暮らしが長いのに無理をして出生地の言葉を話す人が
空々しいのはそのせいだと思います。
親族の中では「他人」に、より近づいているとも言えます。

この小説の場合は、山口瞳の出生のいきさつが
彼を親族の中で異端たらしめる結果になって、
彼は長らくその疎外感に苦しめられてきたのだと思います。
これは、長く地元を離れてしまった者が感じる
疎外感に根底は近いのではないかと思いました。
山口瞳があまのじゃくで、自分自身のことを真正面から
受け止めることがどうにも苦手なのは、
疎外感から身を守るために必要なものだったのかもしれない。
わたしは、その部分にいやなものを感じながら、共感してしまった。

非常に気になったので、「血族」の続編(?)とも言えるらしい
「家族」を読むことにしました。
その話は、また近いうちにここに書きます。

…わたしは本当に山口瞳が苦手なのだろうか?


血族
山口 瞳
4167123045

2007年6月18日

砲台島

三咲光郎 2007年の作品。

すさまじい物語だった。
戦時下の憲兵と警察の力関係のことなど、よく知らずに読んだ。
ラスト80ページは「凄惨」のひとことだ。

確かにミステリではある。
が、事件の背景を追えば追うほど、戦時下の日本のありようが読み手に迫ってくる。
謎を追うことを楽しむミステリとは勝手が違う。
重いものが胸に渦巻く。
どんなに読み進めても、憲兵・渡里中尉の恐ろしさが和らぐことはなかった。
反して、最初は威張り散らして見えた憲兵たちの人間らしさが、
徐々にじんわり沁みていった。

主人公の巡査・弘之は、18歳とは思えない冷静さだった。
命が軽んじられていた時代、赤紙が来れば特攻要員として召集されてしまう。
あと4日で召集というせっぱつまった命だった。
だから、ここまで冷静に、なおかつ大胆になれたのか。
一巡査が、大胆に憲兵にズバズバと切り込んでいくその様、
ある種、ハリウッド映画のようだと思った。
地方という特色のせいもあろう。そう解釈したい。

読み終えて、ざわざわしたものが残った。
いろいろな読み方ができるだろう。
食べる手立てをなくした人たちが取った行動について。
毎日、未曾有の命が爆撃で失われている中、
殺された憲兵数人の足取りを追う弘之の捜査について…。

砲台島
三咲 光郎
4152088141

2007年6月27日

グラックの卵(The egg of the Glak)

国書刊行会「未来の文学」シリーズ、2006年。
浅倉久志・編訳の、ユーモアSFアンソロジー集。

カバーのデザインがハードな印象なので想像できませんが、
楽しい短・中編がぎっしり詰まっています。
わたしが気に入ったのは、ヘンリー・カットナー「ギャラハー・プラス」。
SFらしさがふんだんに盛り込まれ(しかもとても重要な役割をしめています)
登場してくる人物がユニークで楽しい。
構成もすばらしいと思いました。

ジョン・スラデック「マスタースンと社員たち」は
非現実的でいながらも、どこか現実的な印象で
(社会なんて、きっとそういうもの!)
読後感、ずっと尾を引いた作品でした。
ディヴィッドスン「ナポリ」「ナイルの水源」、
百間「旅順入城式」の非現実感に近いものを感じました。
こういうのって、どうやって思いつくんだろう。
不思議です。

「グラックの卵」には、全部で9編が収められていますが、
これまでほとんど日本に紹介されていなかった希少SFです。
まだまだこういう面白いものってたくさんあるんだろうなぁ。
国書のこのシリーズ、面白そうなものがたくさんあるので
ぼちぼち攻略していきたいと思っています。


グラックの卵
ハーヴェイ ジェイコブズ他/浅倉 久志:編訳
4336047383

2007年6月30日

[余談]ギブアップ...

読み始めてみたものの、ど~~~しても読みきれなかった
ギブアップ作品もUPします。
作者の方、ファンの方、ゴメンナサイ...


「僧正殺人事件」ヴァン・ダイン
ペダントリーがもうつらくてつらくて...。
ごめんなさい。半分くらい読んだけど、無理でした。
正史絶賛の作品です。

僧正殺人事件
ヴァン・ダイン 井上 勇
4488103049


「黒死館殺人事件」小栗虫太郎
こちらもペダントリーがつらくてつらくて...。
「完全犯罪」は読んだんですが、「黒死館」はムリです。
ごめんなさい。

日本探偵小説全集〈6〉小栗虫太郎集
小栗 虫太郎
448840006X

アクロイド殺害事件(The murder of Roger Ackroyd)

クリスティ1926年の作品にして、代表作のひとつであり、
「世界推理小説史上のマイル・ストーン」(中島河太郎)。

面白かったです。
わたくし、クリスティ初体験だったのです(照)が、
読みはじめがアクロイドっていうのはよかったなー。
さすが古典。さすが名作。

この作品は、ポワロのそばで事件の成り行きをずっと見ていた
医師・シェパードの手記という形でつづられた作品です。
この「手記」というのがクセモノで、
あくまでもシェパードの視点から事件を追うため、
ポワロの行動について「後から知らされた」など
盲点がいっぱいあります。

クリスティが取った「手記」という手段。
たしかに、後年のミステリにたくさん応用されていますが、
どうしても一方的な視点になるためか、
主語があっちこっちに飛ぶ作品も少なくありません。
が、「アクロイド」に関しては、一貫して医師の視点で
描ききれており、文学的にも優れていると思いました。

それにしても、出版社によって
「The murder of Roger Ackroyd」が
「アクロイド殺し」だったり「アクロイド殺人事件」だったり
「アクロイド氏殺人事件」だったり、てんでバラバラなのは
どーにかしてほしいと思いました。

アクロイド殺害事件
アガサ クリスティ Agatha Christie 大久保 康雄
4488105432

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