初出は1961年週刊文春の作品。
わたしが読んだのは光文社文庫版で、
これは1977年角川版を底本に鮎川哲也自らが若干改訂を施したものです。
鮎川の改訂癖はスゴイですね。
鮎川マニアの人は、いったい同じタイトルの本を
何冊持っているのでしょうか。
鮎川哲也は、推理小説のなかでは
美しく読みやすい文章を書く作家だと思います。
水のようにするすると入ってくる感じは
独断ですが重松清に通じるものがあるように感じます。
「人それを情死と呼ぶ」というタイトルが示すとおり、
情死とされたものの、実は偽装殺人ではないのか、
と疑惑がもたれるところから物語が進行します。
そこにいたる描写のよどみない感じ、さすがだと思いました。
ひとつひとつのアリバイを裏付けてゆく過程も
多少の意外性を含みながらも、あくまでもリアルです。
ひとつだけ、どうしても気になった点というのは
女性の描写が一辺倒であるところでした。
鮎川作品に登場する男性は、皆、際立った個性をもち
魅力的であるのに、なぜ女性キャラの魅力に欠けるのだろう。
「黒いトランク」や「憎悪の化石」では
女性キャラというのはそんなに重要ではなかったと思います。
「トランク」に登場する唯一の女性は
鬼貫の捜査の原動力として描かれているに過ぎなかったし、
「化石」では、極論から言えば女性が男性になったところで
そんなに意味に違いはなかったと思います。
が、「情死」での女性キャラクターは、とても重要な存在であり
「聡明な女性」と評されている由美と
「美しい妻」の照子が入れ替わったところで
どう違いがあるのかわからない。そこが、ほんとうに残念。
ラストの余韻は美しいと思いました。
面白くて一気に読み進めてしまう手腕に、今回もやられたー
という感じですが、細かいところが気になってしまったのは
この作家の文章がわかってきたせいもあるかもしれません。
…と、いろいろ書きましたが、とても面白かったためです。
太鼓判押せます。ドン!
