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ホーカス・ポーカス(Hocus Pocus)

ホーカス・ポーカス
カート・ヴォネガット 浅倉 久志
4150112274

ヴォネガット 1990年の作品。90年代に入ったヴォネガットは、もうおとぎ話を書けないほど、母国に対する怒りと悲しみが深くなってしまったようだ。これまでのヴォネガットには、どんな内容のものであれファンタジーがあった。偶然の産物があった。涙を誘うペーソスあふれる愛の対象があった。ところが、「ホーカス・ポーカス」にはそれがあまりない。登場人物はすべて架空だし、設定も奇想天外なのに、シリアスで、絵空事になっていない。どちらかといえば、その翌年書かれたエッセイ「死よりも悪い運命」や「国のない男」のテイストに近い。

ヴォネガットのエッセイを読むと思い出すのがマイケル・ムーアの映画だ。確かに面白いし、皮肉が利いている。痛快で、どこか悲しい。けれど、ムーアにしてもヴォネガットにしても、これらの作品は自国民のために発表しているのだ。アメリカ人による、アメリカ人のための、アメリカ人のエッセイであり、映画である。日本人であるわたしは、そこに少々居心地の悪さを感じる。これを壮大なたとえ話として、自分の置かれた境遇...日本の問題に置き換え、それらを眺めることはできる。けれども、やっぱりどこか違う気がする。

「ホーカス・ポーカス」が、ヴォネガットのエッセイに近いと思ったのは、ストレートすぎるほと、差別に対して訴えてくるからだ。これまでも彼が作品を通じて訴えたかったことが、フィクションというオブラートに包んでいては、もう自国民に伝わらないと思ったからかもしれない。彼が次回作の「タイムクエイク」を最後に、物語を綴るのをやめてしまったのもうなづける気がする。

ただし。この作品では、ラスト20ページくらいにヴォネガットらしいしみじみした味わいがようやくやってくる。具体的には、ヒロシ・マツモトの描写をもっと早い段階で掘り下げてほしかった。また、息子との対面が、この物語の中では一番よかった。

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2007年12月31日 12:33に投稿されたエントリーのページです。

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