忌館 ホラー作家の棲む家
忌館―ホラー作家の棲む家 (講談社文庫 み 58-1)
三津田 信三
三津田信三のデビュー作「ホラー作家の棲む家」を改題し、改訂された「完全版」として文庫化されたもの。絶版状態だったので文庫化は嬉しく、書店で見つけ四の五の言わずに入手した。
まず、なんといっても「忌館」は怖い。暗闇への畏怖が、見てはならないものへのあくなき好奇が、全体を覆い隠している。本の中に本が登場する手腕は、夢野久作「ドグラ・マグラ」を髣髴とさせつつも、交互に差し込まれる小説の中の小説と、小説の中の現実は、次第に境界線が失われてゆき、読者は作家の目眩ましに遭う。
それゆえ、ラスト間際の「謎解き」は難解を極めている。殺人があって、探偵が登場し、居間に遺族がずらりと並べられて「犯人はあなたです」と指される的な「謎解き」ではない。じっくり腰を据えないと先述した「目眩まし」に翻弄されるからだ。本文後に追記された「跋文」そして「西日」まで完璧な構成になっているが、これらは決して解題ではなく、謎はより深くなる。そんな点も見逃せない。また、この小説は作者「三津田信三」の体験記として綴られているため、本文内には実際に活躍している作家や評論家の実名も出てくる。しかし、「そうではない作家」の名前もしれっと紛れ込んでいる。どこからどこまでが虚なのか実なのか。翻弄されることを楽しむのも、また一興。
それにしても三津田氏は、ほんとうに乱歩が好きなんだなぁと思った。乱歩が好んで記していた言葉「うつし世は夢 夜の夢こそ真」、これがこの小説のテーマなのではないだろうか。吸い込まれるような真っ暗な夜空や、暗闇の茂みが姿を消しつつある現代に、三津田信三が執拗なまでに表現した「闇」はどこまでもいとおしく、そして恐れおののくべき存在だと思った。



