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2008年10月 アーカイブ

2008年10月 3日

見えないグリーン(Invisible Green)

見えないグリーン
ジョン・スラデック 真野 明裕
4150753024

あのスラデックがミステリ!?と少々驚いたのだが、カバー帯の鮎川哲也の推薦文に惹かれて入手した。たいへんビックリした。とても丁寧に書かれた、本格物だったからだ。導入がスローなのでどうなんだろうと思ったが、気がついたら展開が気になってしまっていた。

何と言っても、ありとあらゆることが伏線だった。見落としがあるとこれまた大変で、途中でページを繰ることしばしば。それでも、途中途中で情報を整理してくれる心配りもあり、しゃれた台詞回しもあって、秀逸なできばえに心底驚いた。個人的には、クロフツの「樽」と肩を並べる。恐れ入った。

私自身、スラデックは「グラックの卵 」に収録されている「マスタースンと社員たち」が最初だったので、SF作家と言う刷り込みだった。ところが、先日発売された「蒸気駆動の少年」にも名探偵フィンが活躍する短編が収録されているらしい。もう1つの長編 「黒い霊気」も読んでみたい。メモメモ。

2008年10月 4日

横溝正史読本

横溝正史読本 (角川文庫 (よ5-200))
小林 信彦
4041382165

嬉しいねぇー。小林信彦による横溝正史ロングインタビューがようやく読めた! 長らく絶版だったし、古本は高額で取引されてたから、このたびの復刊は本当に嬉しい。一気に読んでしまった。

新青年の頃、「本陣」「蝶々」「獄門」の三冊、そしてクリスティーを巡る話題が大きな柱。乱歩、雨村、水谷準は勿論のこと、渥美清や果てはSFまで。博覧強記同士の話題はあっちこっちに飛びまくり、「これからは半村良をおおいに読むとしましょう」なんて横溝先生、やっぱりスーパーおじいちゃんだ。特に印象的だったのが「対談を前に読んでおかなくては」と生前の夢野久作から寄贈されていた「ドグラ・マグラ」を読んだ話。あまりにも本の内容が強烈だったせいで、書棚の大きなガラスを割っちゃったくだりは興味深かった。夢野と横溝、この二人の作家には殆ど接点がないと思っていただけに、双方のファンとしては嬉しいことこの上なかった。これも丁寧に話し込んだからこそ引き出せたエピソードで、貴重なインタビューだと思う。

惜しむらくは、文庫版で削除されてしまった乱歩没年の日記だ。権利の問題か? どういう経緯で削除されたのかはわからないが、読みたかったなぁ。また、最初の出版からかなり年月が経っているので、注釈がそろそろ必要ではないかと思った。もともと、わたしは探偵小説好きなので、このあたりの話題には結構ついていけたけれど、戦前の探偵作家の名前等は大部分が現在では忘れ去られている状況だ。21世紀に復刊したなら、やはり解説がほしいところ。資料価値の高い本なだけに、そのあたり手を入れる必要はあるかもしれない。いや、もしかしたら「完全版」という形で後年出るかもしれないね。って勘ぐり過ぎかしら。

いろいろ言ったけど、とにかく楽しい一冊だった。戦前の探偵小説ファンは勿論のこと、戦後の推理小説誕生に興味のある人なら必携の一冊だろう。

2008年10月 6日

オヨヨ島の冒険

オヨヨ島の冒険 (角川文庫―リバイバルコレクション)
小林 信彦
4041382017

初めて読んだ文庫本は、小林信彦の「オヨヨ城の秘密」だった。小学校5年生くらいだったと思う。内容はすっかり忘れてしまったが、マゼンタ色の表紙をよく覚えている。

あれから30年近くが経ち、とっくに絶版の憂き目にあっていたオヨヨ大統領シリーズの第1作目がこのほど復刊の運びとなった。なんとめでたい! ということで、「横溝正史読本」に続き、復刊記念にこちらから読んでみた。(ただし、わたしが手にしているのは、いつか古本屋さんで集めたもの。バーコードのない時代の本で、挟まっている広告は何と「横溝正史フェア」。「八墓村」と「本陣」映画化のタイミングのときのもの)

この小説には、70年当時の流行が随所に織り込まれているため、すべてのギャグに笑えるわけではない。しかし、このナンセンスっぷりは今も十分な破壊力を持っていると思った。ここにあるのは「古きよき懐かしい昭和」ではなく、シニカルでリアルな昭和が描かれている。そのせいか、読んでスカッとした気持ちになる。それにしても、オヨヨ大統領とその部下たちのなんと魅力的なことだろうか! 今ひとつ残虐に徹することのできない極悪人、オヨヨ大統領。構想は悪いヤツそのものなんだけど......。また、実弟・泰彦氏による挿絵もすばらしかった。この勢いで、ぜひともオヨヨ大統領シリーズをすべて世に出してほしい。お願いします、角川さん!

2008年10月15日

クリムゾン・ルーム

クリムゾン・ルーム
高木 敏光
4763198238

一気に読ませる面白さがある。エンタテインメント性に富んだ力作。虚実入り乱れた感じがいい。

が、登場人物とエピソードが多すぎたきらいがある。たとえば、序盤で起きた出来事が、本編の重要な伏線なのかと思ったら、結局そうでもなかった、とか。途中でオカルト風味に話を展開したが、これがラストに生かされてないのはどうしたことかと思った。「憑いているなにか」にしても、「蕁麻疹」にしても、ラストに結局つながらなかった。不気味さや怖さを演出するなら、梁川がラストで働いた仕事だけで十分威力があったと思う。あと、どうしても気になったのが女性の言葉使い。これが昭和30年代の小説を読んでいるようで、違和感があった。しかしながら、キーパーソンであるKの描写はものすごくよかった。Kについてはもっと掘り下げてほしかったかも。

全体としては、若干とっちらかった印象がぬぐえなかった。次回作に大きく期待したい。

怪人オヨヨ大統領

怪人オヨヨ大統領
小林 信彦
4041382025

ジュヴナイルシリーズ第二弾。一冊目「オヨヨ島の冒険」のラストから冒頭が引用されていて、続けて読むとおもわずニヤリ。それにしても、今回もいい加減で大変によろしい。どこかシニカルな視点のルミ、人情味がどうしてもにじみ出てしまう悪党・オヨヨ大統領。楽しい読書時間が過ごせました。

オヨヨ城の秘密

オヨヨ城の秘密 (角川文庫 緑 382-3)
小林 信彦
4041382033

何を隠そうこの本こそが、私が生まれて初めて手にした文庫本であった。何年ぶりだろう。相変わらず楽しい。

ジュヴナイルオヨヨ大統領シリーズ第三弾。ルミに妹ができて、そして舞台は海外へ! 登場人物も、コランボさんとか旦那警部とか。旦那さんは鮎川哲也を読まないとわからないですね。前回には鬼面さんなんてキャラが出てたし。(「黒いトランク」、名作です)。 そして旦那警部、ボコノン教まで口にしだす。一体、どこまで遊んでいるのだろう、小林信彦恐るべし。時代が時代なので、今となっては通用しないギャグも多いけど、なんのなんの、二十一世紀の今も十分楽しく読めました。いよいよ次から大人向けに入る。ワクワクです。ビバ、オヨヨ!

2008年10月24日

ウォッチメイカー(The Cold Moon)

2007年の「このミステリーがすごい」と「週刊文春ミステリーベストテン」ダブルで1位を獲得していて、「ボーン・コレクター」のシリーズで、未だに書店で平積みになっている本である。実は1年近く積読にしていて、ようやく手にしたのだが、これをどうして今まで積読にしておいたのかと後悔した。ものすごく面白い。人生損した!

なんといっても、登場人物が魅力的だ。犯罪者も、警察サイドもそうだ。個人個人で皆、なにか抱えていて、その描写がちっとも話の進行を妨げることがない。膨らませていると言ったほうがいい。そして、どんでんがえしがあまりにもすごすぎる。こう来るかー!の連続だったが、ちょっとやりすぎな感じも否めない。ただ、エピソードを描く筆がどこまでも丹念で、浮き足立った印象は一切ない。行き急ぐこともなければ、もたもたとした印象もない。冷静に話を進めている、といった印象だ。骨太な印象のミステリであり、人間ドラマだった。なかなかこういう本にめぐり合えずにいたが、久しぶりに「醍醐味」を堪能した。読み終わるのが惜しいほど。

二つの事件が平行して進んでゆくが、これらが収束していく手腕はかなりのものだと思った。偶然、関係があるといったような展開ではあまりにも弱すぎるし、これをどう一つにまとめるのかに最初からずっと注目していたが、思いがけなかった。これだけで満点を差し上げてもいいと思った。

個人的には、ジェラルド・ダンカンは、ぜひともStingに演じてもらいたいと思った。それから、タイトルは「コールドムーン」でもいいと思うのだけど......。やはりこれまでのライムシリーズのように、犯罪者の呼称をタイトルに持って来たいということだったのだろうか。

2008年10月28日

ソラリスの陽のもとに(Solaris)

スタニスワフ・レム、1961年の作品。映画「惑星ソラリス」と「ソラリス」の原作である。ハヤカワ版が1977年刊行(訳は飯田規和)なのに対し、国書刊行会版(コチラのタイトルは「ソラリス」。訳は沼野充義)は2004年。国書版はポーランド語原典からの新訳版で、ハヤカワ版はロシア語版を原典としたので、少々内容が異なるらしい。が、特に結末に大きく影響を及ぼすようなことはなく、冗長すぎるきらいのある部分がカットされてるのがロシア語版という情報だった。どちらを手にするべきか少々迷ったが、長く読まれているハヤカワ版を手にした。

長い物語であるし、ソラリスの「海」についての描写や研究書については相当ページを割いているが、登場人物たちがソラリスにやってきた経緯などは深くは語られていない。この曖昧さが却って50年近く昔の物語の劣化を防いでいるのかもしれない。そして、描写が非常に美しい。「海」の描写のなんと美しいことだろう。恋人・ハリーの描写のなんと儚いことだろう。

読み始めのとき、わたしは「地球的な価値観で」ソラリスを当てはめて、ひとつ謎解きでもしてやろうといった気持ちでいた。しかし、そもそもそれが大きな間違いだった。ラスト、ソラリスの海での体験の描写は、圧倒的な美しさだと思う。それから、恋する人にもオススメの小説。泣けます。

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