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氷(Ice)

アンナ・カヴァン、死の前年に書かれた長編。85年にサンリオ文庫から出ていたものを、同じ訳者による大幅な改訳が施され、今年リリースされた。夏に出た本だと思うが、この本を本当に読むのにふさわしいのは今の時期なんじゃないだろうか。寒い、凍えるような季節がいい。

自身に酔いしれるような男の、身勝手とも取れる行動が延々と綴られており、現実と幻覚が何の前置きもなく入り混じる。この描写に読者も酔うことになる。文章に翻弄されて、その高揚感にともに流される体験が満喫できた。

登場人物にはひとりも名前がない。彼らの行動は、実に自分本位でありながら弱々しく、痛ましさすら感じるが、氷と雪に覆われた世界とあいまって、読む間、ずっと不安な印象を抱き続けた。また、具体的な国名なども当然ないが、極寒の地に、氷に覆われていく世界の終わりを描き出した筆致は果てしなく美しい。夢野久作「氷の涯」のラストを髣髴とさせる。印象的だった。

カヴァンの生涯の壮絶さはともかく(解説に詳しい)、個人的には改訳版を出すに至った経緯などを記してくださった山田さんの訳者あとがきがとてもよかった。拍手。

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2008年11月29日 21:25に投稿されたエントリーのページです。

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