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2008年12月 アーカイブ

2008年12月 2日

社交ダンスが終った夜に(One More for the Road)

ブラッドベリ2002年の短編集。2008年、伊藤典夫の名訳により翻訳刊行。

21世紀型ブラッドベリは、新しいエンジンを手に入れ走行距離を伸ばしている堅牢な自動車のようだ。乗り心地はどこまでもコンフォータブル。古びない感性の泉といってよい。ここ最近のブラッドベリは出版数も増えているせいもあり、邦訳も実にたくさん出ていて、ファンにとって嬉しいこと限りなしなのだけど、伊藤訳の安心感ときたら、もう別格なのだ。訳者あとがきまで、その流れをせき止めない。実にすばらしいなぁ。

この本が、文庫で出てるのがもったいないかもと思ったが、これに上質な革製のカバーをかけて、ラッピングしたら、ものすごくすばらしいクリスマス・プレゼントになるのではないだろうか。愛する人に手渡ししたらきっとステキだろう。そんな短編集だ。特に気に入ったのは「ドラゴン真夜中に踊る」「何もない土地には動く場所がある」「タンジェリーン」そして「時の撚り糸」。切なさと愛情、そしてほんの一さじの奇想。ブラッドベリの快進撃、どこまで続くのか。期待しています、スーパーおじいちゃん!

2008年12月11日

マーブル・アーチの風(The Winds of Marble Arch and Other Stories)


コニー・ウィリスの短編作品を日本オリジナルで編んだもの。編・訳は大森望。

ウィリスの小説の特徴として、人の話を聞かない登場人物と、嫌味を感じない程度のペダントリーが上げられると思うが、特に短編ではそれが際立っているように感じる。登場人物も、主要男女を軸に展開されており、正直なところ物語の区別がつきにくい。この短編集はウィリス本人ではなく第三者によって編まれているから、短編作家としてのウィリスについてどう評価したらいいか正直わからなかった。ただ、ちょっと損をしてるような気がする。初めてウィリスを読む人がこの本を手に取ったとしたら、それはもしかしたら、すごーくすごーく損なことかもしれない。余計な心配かもしれないけど。

ただ、この収録5編のうちのラスト「インサイダー疑惑」には度肝を抜かれた。そもそもSFとは、ありえない出来事を描く「空想の文学」だ。その空想の世界と、眉唾物とされるスピリチュアルものを合体させてしまったこの作品、出すところに出したら大議論になるのではないだろうか。読者の立ち居地も試される作品、短編ながらかなりの手ごたえを感じた。

それから、もうこれはホントに毎回思うのだけど、大森さんの言葉使い、特に女性言葉は、今回もすこぶる上手い。翻訳モノも創作も含め、これまで読んできたあらゆる分野の文章で、大森さんほどの表現力を持ったモノを読んだことがない。世代や性格も書き分けるこの手腕、今回も冴えまくっている。ウィリスを大森訳で読めるのは、日本人の特権と言っていいと思う。

2008年12月31日

2008年、読んでよかった本

12月は読書量が減るなぁーと思いつつ、スパートをかけたいとがんばっていたのに、いつの間にか12月31日になってしまった。今年は個展があったので、それに伴ってヴォネガット全作品を読み返したのが大きな読書イベントだったかな。ということで、今年わたしが読んでよかった本5冊をピックアップしてみたいと思う。なお、今年発売された本、ではなく、あくまでもわたしが読んだ本。長らく積読から脱出した本もあったりなかったり。余談ですがわたしはあまり積読をためない方だと思います。

追憶のハルマゲドン
カート・ヴォネガット 浅倉 久志・訳
4152089474
今年はやはりコレがNo.1ではなかったかと。ヴォネガットファンとしてこの一冊がかなり早いタイミングで邦訳されたことが嬉しかったし、やはりなにより浅倉訳の安心感と来たら! 長らくこのヴォネガット口調に慣れ親しんできた読者として、ヴォネガットが帰ってきたなぁとしみじみした。
ファン目線から離れて、短編小説集としての出来を見ると、正直言って想像以上によかったのに驚いた。この短編集はヴォネガットが自ら編んだものではないので、もしかしたらヴォネガット自身は本意ではなかったかもしれない。が、ほかの短編集よりもわたしはこれが一番好きだ。
戦争をモチーフにしながらも、ペーソスたっぷりに人間性を描いた姿勢は、他のヴォネガットの長編に色濃く通じるものがある。いや、逆に「戦争をモチーフにしたから」こそ、ヒューマニストとしてのヴォネガットの良さが強調されたのかもしれない。また、ラストを飾る表題作は、ヴォネガットの長編でなければ味わえないスラップスティックぶりが堪能できる点において、この作品の発掘は大きな意義がある。短編作品の中では、代表作にしてもよい出来だと思う。イチオシ。


首無の如き祟るもの
三津田 信三
4562040718

この本、去年読んだと思ったら今年だった。今年は三津田信三イヤーだった of わたし的に。クライマックスにかけて、筆の勢いでダーっと駆け上がってゆく描写ときたら、なかなか他では味わえないと思う。今年は、「首無」の続編の「山魔」もすごくよかったし(怖かった!)、デビュー作の「ホラー作家の棲む家」が「忌館」と改題して出された文庫版は、虚実入り乱れてボーダレスになっていく様子がすさまじいの一言だった。新刊が待ち遠しい作家さんの一人である。刀城言耶シリーズはキャラクターの深みが増してきているのも期待感をあおるし、長く読み継がれる作家さんではないかと思う。来年も期待しています!


横溝正史読本
小林 信彦
4041382165

長らく絶版になっていて、古本でどえらい高値のついていた幻の一冊がこのたび見事復刊された。探偵小説の周辺が大好きなわたしにとっては、語られるエピソードの一つ一つが大切な宝石のように感じられた。また、インタビューの始まる前に、袴姿の正史が自身の着衣をさして、「今日は金田一スタイルで来ました」と自己紹介するくだりがなんともチャーミングで素敵だなぁと思った。インタビューとはいえども、さすが博覧強記な二人のやりとり。穏やかな中にスリリングなものがあり、一気に息をつかせず読ませる力がある。


ソラリスの陽のもとに
スタニスワフ・レム 飯田 規和・訳
4150102376

名作の誉れの高いこの本、やっと今年読みました。ロマンチックで切なくて美しかった。海の描写の美しさと、ハリーの美しさの呼応がすばらしかった。登場人物が極端に少ない物語ではあるし、宇宙ステーションの中で展開される物語なのですさまじい閉塞感があり、そこがまた美しさを増長しているのかな、とも思った。しばらくしたらまた再読したい一冊。


消えた少年たち
オースン・スコット・カード 小尾 芙佐・訳
4150114536

そして今年号泣した本。上巻はブラックな会社に勤めてしまったお父さんの奮闘記として泣かせるが、家族間の丁寧な描写を経て至るクライマックスはもう思い出すだけで涙腺がやばい状態になる。小さなスティーヴィーが一所懸命に体当たりで導き出した答えの切なさと、すべてが終わって新年を迎えた家族にさしのべられた優しく暖かな手を思うとき、病んだ社会にあっても人は愛情深く生きることが出来ると再認識できる。すべての人に読んでほしい傑作だと思う。ああー、涙が......。

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