« スプーク・カントリー(Spook Country) | メイン | TAP »

定本久生十蘭全集1

定本久生十蘭全集 1
4336050449

2008年10月より国書刊行会より刊行が始まった久生十蘭全集。とにかく分厚くて、でっかくて重いので、ベッドで読むことも出来ず、電車に乗る際に持ち込むのも苦痛なので、リビングで一日の終わりの限られた短い時間(15分とか30分とか)をこつこつと積み重ねて、ようやく三ヶ月かかって読了した。読了した前の日に第二巻が届いた。

長い時間をかけて、ようやく読み終えた本ではあったけれど、持ち運びに難があるだけで、内容についてはするすると入ってくる調子の良さ、おもしろさがあり、ちっとも苦ではなかった。こんなペースで一体いつ読了するんだろうと思っていたら、いつの間にか読み切ってしまった、といった感じだった。別のトコロでも書いたけど、なんと言っても組み版が美しく、紙の色も優しいクリーム色でイメージの妨げにならない。

内容に話を移す。この全集では、発表年代順に収録されているので、作風や時代の遍歴を把握しながら読み進めることが出来る。これは非常にポイントが高い。最初が「ノンシヤラン道中記」で、しゃれっ気たっぷりな内容と、弁士が読み上げているような調子の良いリズミカルな文体と、めちゃくちゃと言っていいほどのタヌ(主人公の女の子の名前。ちなみに相方は、タヌの尻に敷かれっぱなしの情けなさ満載の日本男児、その名をコン吉という)の活躍にすっかり魅了され、あっという間にユニークな世界観に魅了される。「ノンシヤラン」の名調子は、その後の「魔都」にも引き継がれることとなる。東京の魔的な魅力に彩られた光と影は、普通の文体では表現しきれなかったように思う。

また、第一巻には「金狼」「黒い手帳」そして「湖畔」といった、短編の名品が収録されている点も見逃せない。特に、これらの短編を読んで感じるのは、十蘭の人間観が少し従来の作家とは違うように感じられることだ。死の扱いがあっけらかんとしているように感じる。もっと読み込んでいくうちに、そのアウトラインがはっきりしてくると思うが、デビューして間もない十蘭のこの作品群は、新人らしからぬ力量と個性を発揮していることは間違いない。

さらに、語彙の豊富さ、文体の多様さも久生十蘭の魅力の一部だと思う。例えば「黒い手帳」と「ノンシヤラン」が同じ作者の手によるとは思えないほどである。文体がくるくると変化する。ちなみに、第二巻の冒頭は、いきなり時代モノだった。こういう表現も出来てしまうのか! 驚きを持って第二巻に進むこととする。次に読了の更新が出来るのは、また三巻が届くころだろうか。

About

2009年1月31日 00:39に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「スプーク・カントリー(Spook Country)」です。

次の投稿は「TAP」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。