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2009年2月 アーカイブ

2009年2月15日

TAP

TAP
グレッグ・イーガン 山岸 真:訳
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グレッグ・イーガン 日本オリジナル短編集。2008年。編訳は山岸真さん。

奇想コレクションにハズレなし! 恥ずかしながらこれまでグレッグ・イーガンを読んでこなかったので、この本が初イーガンとなったが、これが最初で良かったなぁと思った。

最初の最初に目にすることとなった「新・口笛テスト」が文句なしのおもしろさ。編訳者あとがきには「のちの作品なら理屈もテクノロジーの影響ももっと偏執的に書きこむはず」とあり、うむむ、そうなのか!と、とても感心した。作品ごとに解説が書かれていたので、一編読んでは解説を読み、というのを繰り返して読み進めたが、これがとても理解の助けになった。

イーガン本人がプログラマという職業柄もあると思うが、テクノロジーの描写に無理がなく、実際に使われている技術とイーガンが想像(創造?)した技術の境界線が自然に融合していて、『少し位相のずれたIT社会』といった感覚が面白かった。「銀炎」「要塞」「TAP」はその中でもおそらく『ハードSF作家・イーガン』らしさが現れた作品なんだろうなーと思った。奇想色の強い「悪魔の移住」「散骨」「森の奥」が特に好きだ。とても楽しい一冊だった。

2009年2月18日

[余談]ひさびさのギブアップ

ヴァン・ダインの「僧正殺人事件」、小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」以来のギブアップです。

宇宙飛行士ピルクス物語
スタニスワフ・レム / 深見 弾:訳
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同じレムでも、あんなに「ソラリスの陽のもとに」は大好きなのに、ど~~~してもこれはダメでした。どうにも宇宙モノSF小説が苦手。(同じ理由で実はティプトリーも苦手。)かつて、グレッグ・ベアの「ブラッドミュージック」に感動して、その次にベアの「永劫」に手を出して、結局最後まで読み通せなかった過去を思い出します。ファンの皆様、本当にごめんなさい。

とはいえ、本って「身体に入ってくる時期」があると思います。タイミングが悪かったかも。いつか読める日が来ると思うので、ちゃんと保管しておこうと思います。

2009年2月22日

[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ(The [Widget], the [Wadget], and Boff)

[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ
シオドア・スタージョン 若島 正:編
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奇想コレクションにハズレなし、再び! 日本オリジナル編のスタージョン短編集。どこから切ってもスタージョン。もうもう素晴らしすぎる。悲しい話を書くことなく涙腺を直撃する作家の筆頭にはカート・ヴォネガットがいるが、もうひとりあげるとしたら、それはシオドア・スタージョンだ。ごくごく当たり前の、普通にいる人々の営みに、ほんの少し位相のずれたスパイスがいい塩梅で利く。スタイリッシュで洒落もの。野暮ったさはこれっぽっちもない。

「必要」にしても表題作にしても、ちょっと説教くさくて、そこは長編「人間以上」や『一角獣・多角獣』の「死ね、名演奏家、死ね」にも共通している。でも、その教訓を得た登場人物たちは切り出したカステラみたいに、ぽろぽろともろい。そのもろさに、わたしは涙する。共感する。

余談だが「SFが読みたい2009」のアンケートに、この作品を2位に入れなかったことを後悔している。去年のうちに読んどくべきだった。傑作。

2009年2月27日

サイのクララの大旅行(Clara's Grand Tour)

サイのクララの大旅行―幻獣、18世紀ヨーロッパを行く
グリニス・リドリー / 矢野 真千子:訳
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時は18世紀、ヨーロッパに住む人々は、まだホンモノのサイを見たことがない。そんな時代に大陸大移動を行った、サイのクララを巡るノンフィクション。

当然のことながら、18世紀と言うことで写真はない。残っているのは、当時の画家たちが描いた絵だけ。しかも、巡業主のヴァン・デル・メールは日記を残していない。筆者のグリニス・リドリーは、クララを見て感動した人々が残した、たった一行のサイに関する記載までを丹念に拾い集め、つきあわせ、つなぎ合わせた。そして想像力の翼を大きく広げ、その記録同士の隙間を埋め、情景を浮かび上がらせる描写に成功している。明確な記録が儚いことは、ノンフィクションとしての力が弱いことかもしれない。が、そのあやふやさ故か、読者は夢うつつにこの物語を読むことが出来る。ノンフィクションでありながら、どこか幻想的だ。

たとえば、縁あってサイを手に入れたヴァン・デル・メールが、日記を残していない以上、彼が日々どんな気持ちでサイのクララと接していたかはわからない。動物好きなら、できるなら愛情を持ってクララと接して欲しいと願いながらページを繰るが、筆者はその願いに応えるヒントを探し当て、間違いのない証拠として提示する。この結論付けは、人によっては主観が入りすぎてやりすぎに感じるかもしれないが、わたしはとても気分が良かったし、優しく暖かく、ちょっぴり切ない気持ちになった。

また、ヴァン・デル・メールが、いかにして育成方法も確立していないサイの健康を維持し、3トンの巨体を持つサイを20年近くつれ回れたのか、どんな風に人々の期待感をあおったのかなど、マーケティング成功例としても読むことが出来、とても興味深かった。

難を言えば、参考画像が少なかったこと。絵を比較する記述が何か所かあったが、想像力にも限界があるので、比較の片方だけではなく、なんとかして双方を入れて欲しいと思った。造本は美しく、クリーム色の紙の上に、ブラウンの刷り文字が目に優しい。ページの端に、いつも愛らしいクララがいたのもとても良かった。ヨーロッパグランドツアーに同行できる、そんな素敵な一冊。

2009年2月28日

雪男たちの国(Land of the Snow Men)

雪男たちの国
ノーマン・ロック / 柴田 元幸:訳
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不思議な物語だった。この記録を書いたのは、ジョージ・ベルデンという建築家で、ベルデンが合流したスコット隊は実在した南極探検隊である。しかし、編者であるノーマン・ロックが「偶然発見」した、この手記の筆者・ベルデンという人物、どこまでが本当なのか。そもそも、スコット隊が凍死したのは1912年で、ベルデンがスコット隊と合流したのは1913年である。眠りにつくときはフィラデルフィアで、目が覚めたら南極だった、という主張もおかしい。そして、物語で起きたことはあらゆることが「幻想」と言い切っても良いだろうし、挿入されているベルデンの絵画も、建築家のものと言うより、DADAのようにシュールだし、不安を誘う。

「物語」とはこうでなければ、と思う。作者は(あるいは読者は)おぼつかない足取りで、現実と非現実が曖昧に溶け合う境界線上を辿り続ける。この筆が、ベルデンによるものなのか、ベルデンの筆を借りたロックという作家のものなのかは、どうでもいいのかもしれない。が、この「とらえどころのなさ」は、幻想的な氷の涯てでおきた不可思議な出来事に、より鮮烈な印象を植え付けるのに大きな役割を担っているのは間違いない。寒い季節が一番似合う「物語」。

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