タイタンの妖女(The Sirens of Titan)
タイタンの妖女
カート・ヴォネガット・ジュニア / 浅倉久志:訳 
読書ブログにヴォネガットを書くことの出来る幸せ! もう作家は「パンクテュアルな意味において」生きていないし、新作を手にする可能性はほとんど残されていない。そんな中、「新訳」となってタイタンが帰ってきた! どのくらい「新訳」なんだろうと思ったが、実際は旧版のイメージを全く損なわず、チューンナップが随所にはかられている、といった感じだった。(ただし、わたしが所持している旧版がそもそも古く、その後に何度か改訂版も出ていると思う。なので、どこまでが新訳版として改まった箇所なのかは正確にはわからないです。)
何度目かになるタイタンは、やっぱり面白かった。いや、一番面白かった。実を言うと、わたしはタイタンがあまり好きではなかった。火星の描写がとても残酷でいやだったからだ。その残酷さは「未来世紀ブラジル」を思い起こさせる。新訳になって、残酷さが薄まることはもちろん無い。けれど、この作品を受け入れる「わたし」に変化があったのではないかと思う。
ヴォネガットが用意した、あの雪のラストの美しさはもう比類がない。「トーストみたいにあったかだ」を繰り返すコンスタントの結末、とても幸せだったと思う。幸せな夢が見れるようにと手を貸す存在がいることは、探し求めた親友に出会えない悲しみの埋め合わせとして、十分なほどの価値があると思う。考え得る限り壮絶で残酷な体験の後にやってきた時間は、穏やかで、どこまでも優しい。ヴォネガットを読む間のわたしはとても幸せだし、幸せだったし、これからも幸せだと思う。




