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2009年3月 アーカイブ

2009年3月 2日

タイタンの妖女(The Sirens of Titan)

タイタンの妖女
カート・ヴォネガット・ジュニア / 浅倉久志:訳
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読書ブログにヴォネガットを書くことの出来る幸せ! もう作家は「パンクテュアルな意味において」生きていないし、新作を手にする可能性はほとんど残されていない。そんな中、「新訳」となってタイタンが帰ってきた! どのくらい「新訳」なんだろうと思ったが、実際は旧版のイメージを全く損なわず、チューンナップが随所にはかられている、といった感じだった。(ただし、わたしが所持している旧版がそもそも古く、その後に何度か改訂版も出ていると思う。なので、どこまでが新訳版として改まった箇所なのかは正確にはわからないです。)

何度目かになるタイタンは、やっぱり面白かった。いや、一番面白かった。実を言うと、わたしはタイタンがあまり好きではなかった。火星の描写がとても残酷でいやだったからだ。その残酷さは「未来世紀ブラジル」を思い起こさせる。新訳になって、残酷さが薄まることはもちろん無い。けれど、この作品を受け入れる「わたし」に変化があったのではないかと思う。

ヴォネガットが用意した、あの雪のラストの美しさはもう比類がない。「トーストみたいにあったかだ」を繰り返すコンスタントの結末、とても幸せだったと思う。幸せな夢が見れるようにと手を貸す存在がいることは、探し求めた親友に出会えない悲しみの埋め合わせとして、十分なほどの価値があると思う。考え得る限り壮絶で残酷な体験の後にやってきた時間は、穏やかで、どこまでも優しい。ヴォネガットを読む間のわたしはとても幸せだし、幸せだったし、これからも幸せだと思う。

2009年3月 8日

ハーモニー

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
伊藤 計劃
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善意の押しつけと癒しがはびこる「今」を生きる作家だからこそ書ける文学だと思った。このラストの残酷さは比類がないと思ったし、この美しさは見たことがない。想像の先を行く恐ろしさ。映画化されるんじゃないかな、と読んでる間はずっと思ったが、このラストを表現できる手段がないように思った。いろいろな意味で非常に「恐ろしく美しい」作品。

ただ、この時代背景が没個性を強いられているからかもしれないが、登場人物に魅力が今ひとつ欠ける気がした。感情移入できないし、人々の表情が浮かばない。このラストの深い表現力があるせいか、どうしても浅く感じられてしまい、そこが唯一(しかもかなり)残念だった。

2009年3月13日

Boy's Surface

Boy's Surface (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)
円城 塔
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あまりにも難解で意味不明とあちこちで謳われていたものだから、なんとなく手が伸びなくてうだうだしていたが、「本の雑誌」での円城氏の連載がとてもユーモラスでいい文章なので、食わず嫌いは良くないよねぇと思い、短編集を手に取ってみた。

......とても面白かった! 敬遠していた時間を返して欲しいよ。こういう作家が日本人にもいるって言うのが嬉しいじゃないですか。

子供の頃、目を閉じた世界って言うのはきっと有象無象がうごめいているに違いないとか、わたしが見ているこのカタチはあなたが把握しているものとは実は違っているんじゃないかとか、そういう想像って誰もが抱いたと思うし、未だにそういうことって延々考えることがある。人に話すと、そうかなと一蹴されてしまうことも多いし、逆に説明されてしまっても、納得いくものではない。といった「空想の世界」をまんま小説の形にして、エピソードにして盛り込んだのが円城 塔だと思う。ギャグもたくさんあった。笑いどころも満載だし。かつてYMOの「BGM」が登場したとき、これは理解できないと眉をひそめた人がたくさんいたことを思い出した。

エピソードがあちこちに飛ぶ手法は、後期ヴォネガットに通じるところがあるかな。不覚にも四本目の「Gernsback Intersection」のラストではじわっと涙が。切なかったです。ひとつだけ、四本目のレオナルド・ロンドンは一本目に出てきたベンジャミン・ロンドンと同じ名前にしておけば良かったのに、と思った。

2009年3月16日

魚神

魚神
千早 茜
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小説すばる新人賞受賞作品。若い作家さんによる、美しい筆運びが魅力的だった。幻想的で、うっとり世界観に浸りながら読み終えた。幻想的な登場人物たちや世界観が圧倒的な魅力なのだが、作者はあまり幻想に行きたくなかったのか。キャラクターたちが幻想に走ろうとするのを、作者が引き留めているような印象が最後まであり、もっと思い切った展開にしても良かった気がした。大事な場面転換の度に、主人公が意識を失う展開はご都合過ぎたかも。とはいえ、一気に読んでしまうすごい魅力がある。次回作に大きく期待!

2009年3月22日

ポルトガルの四月

ポルトガルの四月
浅暮 三文
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いい小説に巡り会えたなーと思った。登場人物も魅力的、シチュエーションも面白い! くさい食べ物で記憶が戻る手法も新鮮で、飽きない展開だった。ばかばかしくなりがちな展開を、いい案配で押さえ込んだ手腕が最後まで冴えてて、ラストのオチまで楽しく読めた。

わたしは昔から小林信彦のオヨヨ大統領シリーズが大好きなんだけど、この小説にはオヨヨ大統領的なテイストが多分にあると思った。ぶっ飛んだ展開も、お約束過ぎるアクシデントも、それはないだろー?と言いたくなる出会いも偶然も、全部ひっくるめて許せてしまう。特に、ウィミンの素性がわかったとき、あ!と膝を打った。縁は奇なもの、粋なもの。浅暮三文氏の大ファンになりました。

2009年3月28日

阿房列車 1号

阿房列車 1号 (IKKI COMIX)
内田 百間 / 一條裕子
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なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う ------ 私がヴォネガットと並び敬愛し続けている作家・内田百間の名著「阿房列車」を、あの「わさび」の一條裕子さんが漫画化してしまった! 一條さんは爺を描かせると天下一品なので期待していたが、百間先生を描かせても相当上手かった。特に横顔の鬢のアタリがなんとも。うーむ、いいぞいいぞ。

百間先生の語り口はそのままに、いい感じでデフォルメが利いて、仕事に疲れた合間にとてもリラックスできた。百間先生がファイティングポーズをとるのだけはちょっと違和感があったけど、もうほんと我が儘気ままな先生と、のらりくらりと頑固爺をうまくあしらう山系さんのやりとりには何度も爆笑した。はやく二巻が出ないかな。原作をまた読み返したくなった。コレ、とっても素晴らしいです。

余談ですが、この漫画には鉄道関係の監修がしっかりついていた。一條さんはこの作品を描く上でとても大変だったのではないかと思われる。監修付きの仕事の大変さが身にしみるこの頃、変なところに同調してしまった。

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