ダブリナーズ (新潮文庫)
James Joyce 
すっごくよかった。こういう市井の人々の何でもない毎日の、何でもない出来事に喜怒哀楽が凝縮されている。そんな話が本当に好きだ。成功を収めて意気揚々としている(ように見える)友人との再会の後、自身の夢破れた現実を苦々しく受け入れるような、そんな人間模様。誰だってきっと涙するんじゃないだろうか。じわっときた。人生とはなにか。ささやかな暮らしとは何かを、静かにかみしめながら読んだ。
そして、「ダブリン市民」をあえて「ダブリナーズ」と改称した、訳者・柳瀬尚紀氏の情熱がいい。翻訳モノが私は大好きなんだけど、やはり訳者後書きが長いもの、熱いものが嬉しいのだ。情熱と愛情をぎっしり詰め込んだ仕事ぶりを熱く語ったこのあとがき、いつか読んだディレイニーの「アインシュタイン交点」を訳した伊藤典夫氏のあとがきに迫る熱を感じた。すばらしかった。