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2009年9月 アーカイブ

2009年9月 2日

ノパルガース(Nopalgarth)

ノパルガース
ジャック・ヴァンス
4150117225

自称(若干他称)伊藤・浅倉チルドレンとしては、伊藤典夫新訳の文字が躍るだけでも手に取らないわけにはいかない。というシンプルな理由で四の五の言わずにさっさと入手して読み始めたジャック・ヴァンス。

......えーと。

いや、結構おもしろかったのだ。短い時間でさくっと読めるし、途中の二人の学者同士の試行錯誤はなかなか読ませる。うーん、もっとはっきり言えばおもしろかった。ただ、この作品単体で文庫化するのはどうなのかなぁといった印象。他のヴァンス作品か、もしくは「バカSF傑作選」みたいなアンソロジーとかで、分厚い本に収録するうちの一篇にするくらいのほうがよかったような、という印象。

ただ、これを発掘した訳者の真意については、あの時代の古き良きSFを愛好した人にしか理解し得ないのかもしれない、とも思った。相変わらず熱い訳者あとがきを読んで、なんとなくそんな気も。や、たまにはいいかもしれない、こういうのも。

2009年9月 8日

エドガー・アラン・ポーの世紀 生誕200周年記念必携

エドガー・アラン・ポーの世紀 生誕200周年記念必携
八木敏雄・巽孝之 編
4327472190

来る2009年9月19日~20日のポー大会に備えて読了。とてもおもしろかった。一つ一つの項目がコンパクトにまとめられ、まるで講演会を傍聴しているような感覚で読み終えることが出来る。引用された文献の紹介も丁寧で、興味に応じて当たることが出来る。

わたしが特におもしろいと感じたのが、ラストの「現代のポー・ブックガイド」で、ポーの影響とは書き手ではなく読み手の目のことを指す、と説かれていた点だ。これが目から鱗で、きっと誰もがそれぞれの読書体験の中からそれぞれのポーを見いだしたのではないかと思う。わたし自身、「群衆」を扱うポーについては、ゴダイゴの「孤独な面影(A FACE IN THE CROWD)」(アルバム「Deadend」収録)を思い出した。この曲は、群衆の中の表情のない男とは自分自身であった、と実にポー的な世界観を描いている。(作詞は奈良橋陽子。)また、江戸川乱歩をモチーフに小説に仕立てた久世光彦「一九三四年冬―乱歩」も忘れがたい。この小説には、乱歩が横恋慕する美貌の人妻、アナベル・リーが登場し、そこに描かれる、昭和の初めのホテルの描写は、ポー的であると言っていいと思う。

そんなことをいろいろ語りたくなるような一冊。まさに「必携」書であろう。

DEAD END
GODIEGO
B0012IU25C

一九三四年冬―乱歩
久世光彦
4101456216

2009年9月15日

麗しのオルタンス(La Belle Hortense)

麗しのオルタンス (創元推理文庫)
ジャック・ルーボー
4488188028

久しぶりに人を食った小説に出会って幸せ! このしっちゃかめっちゃかぶり、ヴォネガット「チャンピオンたちの朝食」を彷彿とさせる。ただし、ヴォネガットにはペーソスがあるけど、ルーボーにはウィットがある。フランス人恐るべし。そして、訳者も遊んでいる。すばらしいね。登場人物は誰も彼もが適当で、性格と呼べるものがない、そのあたりもヴォネガット的だと思った由縁かと。

オルタンス3部作、あと2作品も訳されますように。楽しみだなぁー。

2009年9月21日

木でできた海(The Wodden Sea)

木でできた海 (創元推理文庫)
ジョナサン・キャロル 市田 泉:訳
4488547133

わたしにとって2009年は翻訳モノの当たり年のようで、「木でできた海」もかなりツボにはまる作品だった。前半は息もつかせぬ展開でページを繰る手が止まらなかった。後半はちょっとトリッキーな急展開で、これまた目が回りそう。ただ、前半のペースで読み飛ばしたため、肝心なモノをどうも見落としがちだったので、読了後に半分をもう一度読み直した。

うむむ、実にすばらしい。

まるでハリウッド映画のようなドラマチックな展開と(アントニヤが首をゆっくり回すシーンは映画の予告編に出てきそう!)、内省的な描写と大胆な世界観が自然に共存している。一人称で進む物語が、ラストで三人称になる小説は多いが、今回に関しては違和感を全く感じなかった。自然な運びだった。訳もいい。(粋な会話が好きなんです)。クレインズ・ビュー3部作、他の2作も読んでみようと思う。大好きな作品。すばらしい。また再読したい。

ただ、表紙の犬は違う感じ。実は表紙を見て、もっとナイーブな小説かと思っていたら、なかなかどうして。かなり骨太な印象でびっくりした。かっこいい! 実は読んでる間、ずっとカーネーションが脳内に流れた。男らしい小説。あらく~れてあらく~れて~~♪

2009年9月28日

ロボトミスト(The Lobotomist)

ロボトミスト
3400回ロボトミー手術を行った医師の栄光と失墜

ジャック・エル=ハイ 岩坂 彰:訳
4270005165

そのタイトルのまがまがしさに惹かれ、書店で山積みになっていた1冊をすこし立ち読みして、迷ったけれど結局購入した本。「ロボトミー」と聞くと、「未来世紀ブラジル」のラストシーンが思い起こされたが、実際どういうことなのかは知らない。まえがきを読んで、本当のところをわたしも知りたいと思ったのだ。500ページほどの大作ではあったが、実に興味深く読むことができた。

ウォルター・フリーマンの仕事に対する姿勢は紛れもないプロフェッショナルだと感じた。ただ、それは命を預かる仕事の人には当てはまらない。チャレンジ精神、功名心、失敗を恐れない前向きさは、芸術家であればプラスに働いたことだろう。しかしながら、フリーマンは芸術家ではない。

それにしても、生涯に手がけた患者すべての施術後の経過を追跡調査する姿勢には驚くばかりだ。30年以上も、患者の経過を気にしてくれる医師が一体どのくらいいるだろう。自身の施したロボトミーが、いかに患者の社会復帰に役立っているかを証明するためのデータ集め、という側面は紛れもないが、だからといって2000枚のクリスマスカードを患者に送り、返事のあった半数の患者一人一人にさらに手紙を書くその姿勢にわたしは打たれた。

実は読んでいる間、ずっと思い出していたのは夢野久作の「ドグラ・マグラ」とJ.G.バラードの「楽園への疾走」だった。マッドサイエンティストを描く点において三者は共通している。しかしながら、この本に描かれていたのは、サイエンス・フィクションではなく、紛れもない「現実」だった。その違いに最後の章「亡霊」で打ちのめされるような気持ちがした。

2009年9月29日

魚舟・獣舟

魚舟・獣舟 上田 早夕里
433474530X

奇想だった。短編の良さがぎゅぎゅっとつまった良い本。書き下ろしの中編「小鳥の墓」も読み応えがあっておもしろかった。ただ、SF的なガジェットやテクノロジーの描写は必要ないと思った。読み手の推測にゆだねていいのでは。作者はもっと世界観におぼれて描いて欲しい。会話が堅苦しいのも残念。と、その2点を差し引いてもおもしろかった。特に「くさびらの道」は白眉。

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