ロボトミスト
3400回ロボトミー手術を行った医師の栄光と失墜
ジャック・エル=ハイ 岩坂 彰:訳 
そのタイトルのまがまがしさに惹かれ、書店で山積みになっていた1冊をすこし立ち読みして、迷ったけれど結局購入した本。「ロボトミー」と聞くと、「未来世紀ブラジル」のラストシーンが思い起こされたが、実際どういうことなのかは知らない。まえがきを読んで、本当のところをわたしも知りたいと思ったのだ。500ページほどの大作ではあったが、実に興味深く読むことができた。
ウォルター・フリーマンの仕事に対する姿勢は紛れもないプロフェッショナルだと感じた。ただ、それは命を預かる仕事の人には当てはまらない。チャレンジ精神、功名心、失敗を恐れない前向きさは、芸術家であればプラスに働いたことだろう。しかしながら、フリーマンは芸術家ではない。
それにしても、生涯に手がけた患者すべての施術後の経過を追跡調査する姿勢には驚くばかりだ。30年以上も、患者の経過を気にしてくれる医師が一体どのくらいいるだろう。自身の施したロボトミーが、いかに患者の社会復帰に役立っているかを証明するためのデータ集め、という側面は紛れもないが、だからといって2000枚のクリスマスカードを患者に送り、返事のあった半数の患者一人一人にさらに手紙を書くその姿勢にわたしは打たれた。
実は読んでいる間、ずっと思い出していたのは夢野久作の「ドグラ・マグラ」とJ.G.バラードの「楽園への疾走」だった。マッドサイエンティストを描く点において三者は共通している。しかしながら、この本に描かれていたのは、サイエンス・フィクションではなく、紛れもない「現実」だった。その違いに最後の章「亡霊」で打ちのめされるような気持ちがした。