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C.ウィリス アーカイブ

2007年11月11日

犬は勘定に入れません(To say nothing of the dog)

犬は勘定に入れません...あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎
コニー・ウィリス 大森 望
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コニー・ウィリス、1997年の作品。分厚いです。長いです。しかし、それを感じさせない面白さ! 章が終わるたびに事件が勃発。もうその事件の起こり方ときたら、おかしくてたまらない。タイムトラベル・ラブ・コメディと言いましょうか。

この小説は、SFが好きで、ミステリが好きで、歴史が好きで、犬が好きで、猫が好きで、文学が好きで、恋愛コメディが好きな人なら夢中になること請け合い。底抜けに楽しく、はらはらどきどきできて、そして最後は、楽しかった冒険が終わる余韻に、読者はちょっぴり寂しさを感じつつ、それでも迎える大団円に拍手喝采。これ映画化しないのだろうか。いや、それより連続TVドラマがいいな。

登場人物が魅力的で、若いっていいなぁ、大学生になりたいな、なんて思ったりもした。ネッドとヴェリティの丁々発矢のやり取りの楽しさ! テレンスの浮世離れしたおとぼけお坊ちゃんぶり。そして、わがままトシーの自由奔放さときたら! 尋常ではない働きの、本好き執事のベインの細やかさ。レイディ・シュラプネルやダンワージー先生ら大人たちも負けてはいない。揃いも揃って魅力的過ぎる。日本流金まで出てくるし。おっと、愛すべきシリルとプリンセス・アージュマンドのことを忘れてはいけない。

話の作りが、SFの要素が重要な鍵を握りながらも、ミステリの形式を踏襲している。しかも、結構本格的だと思った。ミステリ「風」じゃなくて、まさにミステリ。そのため、この本の中に出てきた数え切れないほどの事件について、ここで述べることはネタバレになる恐れがあるため控えたい。ただ、通読して、何箇所か納得のいかないことも実はあった。が、先が気になって、その記述を軽く見過ごしてしまった可能性はある。また再読して、その不具合を埋めて...いや、齟齬を修復してみたいと思う。

灰色の脳細胞を駆使して、主教の鳥株のありかを突き止めろ。ボン・ボヤージ、よい旅を!

2007年12月17日

ドゥームズデイ・ブック(Doomsday book)

ドゥームズデイ・ブック〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
コニー ウィリス Connie Willis 大森 望
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ドゥームズデイ・ブック〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)
コニー ウィリス Connie Willis 大森 望
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コニー・ウィリス1992年の作品。21世紀のオックスフォード大学の学生キヴリンは、14世紀に実習のため降下した。が、降下したとたんに病に倒れ、前後不覚に陥る。現地の人に助けられるも、降下点が見つからないまま時が過ぎてゆく。一方、キヴリンを送り出した21世紀でも、降下の直後に技術者が病に倒れる。キヴリンの安否を確認できないまま厳戒態勢となり、研究室は封鎖される...。

この文庫が届いたとき、実を言うとその厚さに驚いた。1冊550ページ以上あり、しかも上下巻。最近のハヤカワ文庫は、文字がバカみたいに大きいので、なおさら嵩が増すのだと思うけれど、それにしても邦訳1700ページ。どうなのこれ!?と思っていたが、ページを開いてみたらハイスピードでどんどん読み進められる。読みやすく、そして飽きさせない工夫があちこちにある。

とはいうものの、上巻ではちょっと退屈かもと思わないでもなかったが、下巻はまさに怒涛だった。ラスト間際の荒涼な村の描写と、キヴリンを取り巻くその過酷な状況は息を呑む。14世紀ではアグネスとローシュ神父が、そして21世紀ではメアリとコリンがとてもよかった。主人公のキヴリンは可憐だった。

この作品は、先日読了した「犬は勘定に入れません」の姉妹作品で、ダンワージー先生とフィンチが登場している。「犬勘定」のダンワージー先生は、何のためらいもなく、ヴィクトリア時代へ、「2週間の絶対安静が必要な」ネッド君を意識朦朧の状態で放り込んだ。が、この「ドゥームズデイ」に限っては、キヴリンの安否をこれでもかというくらい、徹底的に案じまくってる。こ、この差はなんなんだ!? やっぱヤローより女のコの方がかわいいに決まっているということか。いや、そうに違いない。「ドゥームズデイ」の方が先に書かれたことを考えると、それも含めてこの設定そのものが笑うとこに違いない。ああ、なんて壮大なコメディー。

最後に、この本で気になった点をひとつ。ラストでキヴリンが着ていた服装は、14世紀のものではなかっただろうか。さて...

2007年12月31日

今年よかった本

おそらく一種の逃避だと思いますが、今年もよく本を読んだ。古い本から新しいものまで。いろいろと。そのなかで、特に印象的だったものをピックアップ。

・「砲台島」三咲 光郎
砲台島 (ハヤカワ・ミステリワールド)
戦時下をモチーフにした作品が多い作家さんで、実を言うと、結構突っ込みどころが多い。多いのだけど、クライマックスの壮大さには舌を巻く。凄い巧いと思う。あと引く作家さん。かなりツボです。いい編集さんと組んで、時代考証や、思想、言葉遣いを徹底しながら書いたらもっといいだろうなと思う。

・「犬は勘定に入れません」コニー・ウィリス
犬は勘定に入れません...あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎
長いんだけど、めちゃくちゃ面白かった!「ドゥームズデイ・ブック」といい、「犬勘定」といい、キャラクターがすごくいい。とにかく巧い。大森望さんの翻訳もすばらしい。女性コトバが洗練されている。

・「黒いトランク」鮎川哲也
黒いトランク (創元推理文庫)
クロフツの「樽」を髣髴とさせるのは、設定が似てるだけじゃないと思う。読み終わったあと、もう一度読み返したくなる。重さとドラマがあるなー、と。それにしても、かなり複雑!そのあたりも「樽」といい勝負。

・「デス博士の島その他の物語」ジーン・ウルフ
デス博士の島その他の物語 (未来の文学)
比類なき物語!深読み必須。「アメリカの七夜」は謎だらけ。ラストの「眼閃の奇蹟」で、気持ちが救われた感じがした。短編集なのにね。一冊を通じてものすごかった。巧くいえないなぁ。ああ、じれったい。

・「デッドアイ・ディック」カート・ヴォネガット
デッドアイ・ディック (ハヤカワ文庫SF)
今年はヴォネガット逝去のショックが大きくて、著書の大半を読み返したが、なかでも「デッド」は凄いと思った。調子がいい、構成がうまい、あっと驚くサプライズがそこかしこにある。やがてページの残りが少なくなり、物語の終わりに気がつくと読者たるわたしは、寂しい気持ちになる。

2008年12月11日

マーブル・アーチの風(The Winds of Marble Arch and Other Stories)


コニー・ウィリスの短編作品を日本オリジナルで編んだもの。編・訳は大森望。

ウィリスの小説の特徴として、人の話を聞かない登場人物と、嫌味を感じない程度のペダントリーが上げられると思うが、特に短編ではそれが際立っているように感じる。登場人物も、主要男女を軸に展開されており、正直なところ物語の区別がつきにくい。この短編集はウィリス本人ではなく第三者によって編まれているから、短編作家としてのウィリスについてどう評価したらいいか正直わからなかった。ただ、ちょっと損をしてるような気がする。初めてウィリスを読む人がこの本を手に取ったとしたら、それはもしかしたら、すごーくすごーく損なことかもしれない。余計な心配かもしれないけど。

ただ、この収録5編のうちのラスト「インサイダー疑惑」には度肝を抜かれた。そもそもSFとは、ありえない出来事を描く「空想の文学」だ。その空想の世界と、眉唾物とされるスピリチュアルものを合体させてしまったこの作品、出すところに出したら大議論になるのではないだろうか。読者の立ち居地も試される作品、短編ながらかなりの手ごたえを感じた。

それから、もうこれはホントに毎回思うのだけど、大森さんの言葉使い、特に女性言葉は、今回もすこぶる上手い。翻訳モノも創作も含め、これまで読んできたあらゆる分野の文章で、大森さんほどの表現力を持ったモノを読んだことがない。世代や性格も書き分けるこの手腕、今回も冴えまくっている。ウィリスを大森訳で読めるのは、日本人の特権と言っていいと思う。

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