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三咲光郎 アーカイブ

2007年6月18日

砲台島

三咲光郎 2007年の作品。

すさまじい物語だった。
戦時下の憲兵と警察の力関係のことなど、よく知らずに読んだ。
ラスト80ページは「凄惨」のひとことだ。

確かにミステリではある。
が、事件の背景を追えば追うほど、戦時下の日本のありようが読み手に迫ってくる。
謎を追うことを楽しむミステリとは勝手が違う。
重いものが胸に渦巻く。
どんなに読み進めても、憲兵・渡里中尉の恐ろしさが和らぐことはなかった。
反して、最初は威張り散らして見えた憲兵たちの人間らしさが、
徐々にじんわり沁みていった。

主人公の巡査・弘之は、18歳とは思えない冷静さだった。
命が軽んじられていた時代、赤紙が来れば特攻要員として召集されてしまう。
あと4日で召集というせっぱつまった命だった。
だから、ここまで冷静に、なおかつ大胆になれたのか。
一巡査が、大胆に憲兵にズバズバと切り込んでいくその様、
ある種、ハリウッド映画のようだと思った。
地方という特色のせいもあろう。そう解釈したい。

読み終えて、ざわざわしたものが残った。
いろいろな読み方ができるだろう。
食べる手立てをなくした人たちが取った行動について。
毎日、未曾有の命が爆撃で失われている中、
殺された憲兵数人の足取りを追う弘之の捜査について…。

砲台島
三咲 光郎
4152088141

2007年12月24日

群蝶の空

群蝶の空
三咲 光郎
4163202404

第8回松本清張賞受賞作。「本格社会派サスペンス」と帯に書かれていたが、この煽りで相当損したんじゃないかと思う。タイプで言えば、「新青年」で探偵小説といいながら、奇想小説を書いていた作家のような感じの作風。

ただ、昭和14年という設定でありながら、現代の小説を読んでいるような印象が最後までぬぐえなかったのは、登場人物たちが皆、現代人のようだか らではないかと思った。設定や、時代背景は丁寧に取材されていると思ったが、言葉遣いだけでなく、やはり登場人物の人格に時代を感じない。そこが残念だっ た。

主人公のひとり、久江のラストシーンは想像できない展開で、非常に度肝を抜いた。実に美しい! この小説は、最後の最後まで何も進展しないし、極論、誰も救われ ない。それに、おそらくこのラストは、賛否両論だと思う。が、久江の最後は作家・三咲光郎の美学が集約されていると思った。完璧ではないが、好きな作家 だ。

2007年12月31日

今年よかった本

おそらく一種の逃避だと思いますが、今年もよく本を読んだ。古い本から新しいものまで。いろいろと。そのなかで、特に印象的だったものをピックアップ。

・「砲台島」三咲 光郎
砲台島 (ハヤカワ・ミステリワールド)
戦時下をモチーフにした作品が多い作家さんで、実を言うと、結構突っ込みどころが多い。多いのだけど、クライマックスの壮大さには舌を巻く。凄い巧いと思う。あと引く作家さん。かなりツボです。いい編集さんと組んで、時代考証や、思想、言葉遣いを徹底しながら書いたらもっといいだろうなと思う。

・「犬は勘定に入れません」コニー・ウィリス
犬は勘定に入れません...あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎
長いんだけど、めちゃくちゃ面白かった!「ドゥームズデイ・ブック」といい、「犬勘定」といい、キャラクターがすごくいい。とにかく巧い。大森望さんの翻訳もすばらしい。女性コトバが洗練されている。

・「黒いトランク」鮎川哲也
黒いトランク (創元推理文庫)
クロフツの「樽」を髣髴とさせるのは、設定が似てるだけじゃないと思う。読み終わったあと、もう一度読み返したくなる。重さとドラマがあるなー、と。それにしても、かなり複雑!そのあたりも「樽」といい勝負。

・「デス博士の島その他の物語」ジーン・ウルフ
デス博士の島その他の物語 (未来の文学)
比類なき物語!深読み必須。「アメリカの七夜」は謎だらけ。ラストの「眼閃の奇蹟」で、気持ちが救われた感じがした。短編集なのにね。一冊を通じてものすごかった。巧くいえないなぁ。ああ、じれったい。

・「デッドアイ・ディック」カート・ヴォネガット
デッドアイ・ディック (ハヤカワ文庫SF)
今年はヴォネガット逝去のショックが大きくて、著書の大半を読み返したが、なかでも「デッド」は凄いと思った。調子がいい、構成がうまい、あっと驚くサプライズがそこかしこにある。やがてページの残りが少なくなり、物語の終わりに気がつくと読者たるわたしは、寂しい気持ちになる。

2008年3月17日

忘れ貝

忘れ貝
三咲 光郎
4163235205

Amazonの画像がないなぁ。いい表紙なんだけど。

この作家さんにしては珍しい、現代をモチーフにした作品で、テーマは「癒し」と言っていいと思う。私自身は「癒し」という言葉が好きではない。正確に言うと、今、世間で氾濫している「癒し」の使い方がいやなのだ。カワイイものやキレイなものを見たり聞いたりするだけで癒されるはずなんかない。それは一時的に慰められているだけで、しばらくすればまた痛みは戻ってくるのだから。

しかし、この小説では、「癒し」について真っ向から取り組んでいる。「癒し」とは、自力で得なければならない「力」であって、その後押しになるものが、環境であったり、家族であったり、他人であったりする。「癒し」としてそれらが作用するかどうかは、本人がどう立ち上がって、その場から一歩を踏み出すかにかかっている。

内容については触れられないが(できるだけ予備知識なしで読んでほしいと思った)、喪失感から立ち直れない人には、ひとつのきっかけを与えてくれる本だと思う。この小説のラスト、勉とその友人たちに後押しされるように歩を進めた美奈子の姿が、自分自身の立ち直りのイメージとも重なる。また、そんな風に一歩を踏み出せたらいいと思った。

こんな小説を書いてくれてありがとうございます。

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