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2007年5月12日

花岡ちゃんの夏休み

花岡ちゃんの夏休み

花岡ちゃんシリーズは、わたしが小~中学生の頃に
りぼんに掲載されていた、清原なつのさんの漫画です。
(写真はRMC表紙です)

大学生に憧れました!
タバコに憧れ、新歓コンパに憧れ、人生哲学に憧れました。
人生とは何か。何のために人は生きるのか。
そんなことをずっと問い続ける花岡ちゃん。
何のために生きるか、課題が提示されていたら
その通りに生きるつもりなの?
さらりとその「答え」を提示し、だから私は恋に生きるのよ、と
軽く流してしまう才媛・笹川華子さん。

わたしにとっての「大学生」とは花岡ちゃんであり、
つるっぱげの簑島さんであり、才女で美女の華子さんでした。
結果的に大学に行かなかったので、今も私の中で
花岡ちゃんはまぶしい存在であり続けます。


清原なつのといえば、「真珠とり」3部作など
SF的な発想でも有名なせいか、彼女のコミックは
なんとハヤカワから読むことができます。
「花岡ちゃん」シリーズも入手可です。素晴らしい!
(ただし、「き●がい」など、多少の表現コードが削除されてるらしいです)

花岡ちゃんの夏休み 文庫版
花岡ちゃんの夏休み
清原 なつの
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2007年10月 6日

百間先生、月を踏む

百間先生 月を踏む
久世 光彦
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久世光彦の絶筆となった最後の作品。久世といえば乱歩と思っていたのだけれど、百鬼園もお好きだったんだなぁー。いや、あまり久世光彦のことは知らないのだけど。

この作品は、まったくのフィクションで、百間先生が小田原に滞在している様子を描いているもので、久世が創造する架空の百間先生の新作が何篇か挿入されている。これって乱歩でも摂られている手法だと思う。そうかー、久世光彦には百間先生はこう見えているのか、と興味深かった。けれど、わたしが思い描く百間先生とは違うなぁ、というのが率直な感想。

ラストを描く前に亡くなってしまったので、この先小説内の百間先生がどういう行動をとったのか、めちゃくちゃ気になる。久世光彦の心情をよく解している作家の方に完結編を書いていただきたい。本気でそう思う。絶筆は悶々とします。

2007年11月 2日

折紙宇宙船の伝説

折紙宇宙船の伝説
矢野 徹
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折紙宇宙船の伝説

先日行った古本屋さんで入手した一冊。いやー、びっくりしました。エロスです。夢野久作「いなか、の、事件」と横溝正史「悪霊島」を足したものを、沼正三「家畜人ヤプー」と高橋しん「最終兵器彼女」をかけたもので割ったような。なんじゃそりゃ。年頃の男の子が読んだら、大変なことになりそうだ。

昭和30年代とおぼしき都会の描写には、ノスタルジーを感じないせいか、あまり心動かされなかった。それにしても、ラストは悲しいねぇ。いろんなものをミックスした、すごい小説だと思った。

2007年12月 5日

氷柱

氷柱(つらら)
多岐川 恭
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先日入手した「多岐川恭 仁木悦子 佐野洋集」の中の多岐川恭の長編(中編?)「氷柱(つらら)」を読了。世をすねたニヒリスト・小城江の冒険譚というか...。話の運びがやや強引な気がしたが、展開が気になってページを繰る手が止まらなかった点においてはよい作品だったと思う。小城江の生活ポリシーや悲しい過去、美学の描写がなかなかにデカダンで、読みすすめるうちにファンになってしまう。魅力的だったな。

多岐川恭は初めて読んだのだけど、まるで戦前の探偵小説家のようだと思った。プライド高く、高潔な印象。

2008年1月27日

警官の血

警官の血 上巻
佐々木 譲
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警官の血 下巻
佐々木 譲
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今、書店に行くと平積みされまくりの話題の本なので、コレはと思い手にとって拝読したところ、たいへん面白かった。まず、なんといっても、人情味あふれる人物の描写がいい。特に、第1部「清二」は誰をとっても魅力的だった。第2部、第3部と進むにつれ、時代がどんどん現代に迫ってくる。今のわたしたちの世代にまでまたがってくるが、時代の移り変わりの鮮やな筆運びは、読んでいて気持ちがいい。

ラストが近づくにつれ、あれ?残りのこのページ数であれだけのことが解決するの!?と変な心配をしたものだが、......すごかった。あのラストは、鬼気迫るものがあった。ああいうラストは好きだ。

個人的には、清二の描写の細やかさが、民雄と和也にもほしかったなぁと言う気がした。が、上下巻、あっという間に読ませてしまう力がある。これは映画になるんじゃないかな。中井貴一あたりが適任かと。モチロン3部作で。どうでしょ?

2008年3月 9日

アインシュタイン交点(The Einstein Intersection)

アインシュタイン交点 (ハヤカワ文庫SF)
サミュエル・R. ディレイニー Samuel R. Delany 伊藤 典夫
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むぅ~~。どうしよう。困った。どう解釈すればいいだろう。再読しないと絶対ムリだ。ただ、ヴィジュアルが目まぐるしく浮かんでは消えるような描写はすごい。イマジネーションを掻き立てる。訳者による翻訳解説と、あとがきがなければ、こんなに困る本はない。とてつもない未来の原始のお話、という感じかな。行間から、音楽と色彩が飛び交う。残酷さも含めて様式美に昇華されちゃってる。そんな物語、と言っては強引過ぎるか。再読しないとムリ、わたしは。


2008年6月18日

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人
最相 葉月
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久しぶりの更新。個展もようやく終わって、書くべき本が結構溜まっているが、少しずつ書いていこうと思う。ということで、再開第一弾は「星新一 一〇〇一話をつくった人」である。

厚い本ではあるが、ぐいぐい引き込む力があり、一気に読んでしまう人も少なくないと思う。取材は多岐にわたり、ええっ、こんな人まで!?と驚きながらページをめくった。ノンフィクションの面白さを十二分に堪能できる。

それにしても「星新一」。日本人ならこの名を知らない人は、あまりいないのではなかろうか。本を読まない人でも、一つ二つはショートショートを読んだことがあるのでは。たとえ記憶から滑り落ちてしまったとしても。それほどの「巨人」であるのに、星新一の執筆期間が想像よりも短いことにまず驚いた。ピークを超えた新一の「書けなくなってゆく様」は、もう切なくてたまらない。

すっごい個人的なことになるけれど、たまたまこの本を読んでいたときに、スパークスのライブ中継を連日見ていた。1971年の「Halfnelson」から、今年出たばかりの「Exotic Creatures of the Deep」までの21枚のアルバムを、一夜一枚の割で全曲演奏する、というものすごいイベントだった。今年でロン・メイルは還暦を迎える。新作を通しで聴いたのは、ライブでの公演が初めてだったけれど、正直言って還暦を迎える人が作るような音ではないと思った。弟のラッセルも今年55歳になる。21世紀に入ってから出たアルバムの方向転換振りは驚異的ですらある。

一方、星新一である。「ショートショートは40を過ぎてから書くものではない」と言う。一作一作を、身を削りながら孤独に書き続けてきた。それはわかる。わかるけれど、それにしても、ああ、老いるのが早過ぎないだろうか。孤独な作業は、そこまで心身ともに削ってしまうものなのか。スパークスのライブを見ながら(比較することではないのかもしれないけれど)、ぼんやりと星新一のことをわたしは思っていた。

星新一が生まれ育つのに、江戸川乱歩の存在がかくも大きいことにも驚いた。「探偵小説四十年」で新一に関する記述ってあったかしら?(星新一は、探偵作家ではないので仕方がないのかもしれない)

乱歩は近代日本文学の父だ。乱歩がいなかったら、ミステリはおろか、SFすら生まれなかったのかもしれない。そして、もう一人のSFの父・矢野徹の存在も忘れがたい。あとがきで、取材の申し込みの手紙を出した日に、訃報を受け取ったとあった。なんということだろう。矢野徹がいなかったら、これまた日本にSFは根付かなかったかもしれない。星製薬の衰退の様子からシフトするかのように、SFが日本に根付いてゆく過程が描かれており、大変鮮やかに感じた。SFマガジンの周辺は、綺羅星のごとく。黎明期とは、まぶしい光を放つものなんだ。

だからかもしれない、かえって新一の晩年の描写が弱いと感じたのは。物事は、常に相反する事柄がある。とはいえ、新一の作品に対する評価が、特に晩年については揺らぎすぎていて、読んでいて不安になった。ここは、最相氏の主観で良いので、がっちりとまとめてほしかった。ラスト間際の、編集者の名前と年齢を、カウントダウンのように列挙してゆく描写は鳥肌が立った。この演出、まるで映画のようだった。

あとは、細かいことになるけれど、いくつかの明らかな誤字や、間違って使われている語句などが、ちらちらと目に付いた。この手の本を読者はスピードを持って読んでいる。そこに、記述の明らかな間違いがあると、読者はつまづいてしまう。刷りをこれだけ重ねている本なので、どこかのタイミングで直していただきたいと思った。直ってるかもしれないけど。

......なんだか長くなったなぁ。面白い本だということは間違いがないので、オススメ。


2008年6月23日

Exotic Creatures of the Deep

Exotic Creatures of the Deep
Sparks
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CDなんですが、たまにはいいかー。ときどき、CDやDVDのレビューも書こうかと。

7月発売の日本盤が待ちきれず入手してしまったインポート盤。音については、ユニークとしか言いようがない。声の洪水に溺れる。DADAとバロック音楽の 融合といっていいのかしら、と思っていると、突如ドライブするリズムにかっさらわれる。コンセプトが前面に押し出された、デザインされた音楽と言おうか。いや、物語性のあるドラマチックな音楽というべきか。

その強烈な音楽の個性とは対照的に、ロンとラッセルは二人の個性をわざと後退させている印象を受けた。たとえば声。生声はほとんど聴かれない。たとえばピアノ。ノイジーなリズムがかぶさってくる。その押し込みぐあいが、なんとも不可思議な印象だった。不気味さすらある。とんでもないアルバムの登場。万人に薦めるには気がひけるが、こういう音を作ってしまう人がいることに本当に驚く。文句なしの名盤。

なお、紙ジャケの作りはなかなかチープで、まちをつけてないただの袋状なので、中身がぎゅうぎゅうになっている。日本で作ったら、ちゃんとした 「ミニチュアレコジャケ」風にできたろうに。デザインはものすごくカッコイイ。写真も、ここ10年のSPARKSのなかでは最高じゃないかと思う。

日本盤は、ボーナストラック+21夜ライブのドキュメントDVD(メイル兄弟編集)がついてくるので、それはまた改めて。2008年7月23日発売也。

2008年7月 1日

夏の涯ての島(The Summer Isles and other stories)

夏の涯ての島 (プラチナ・ファンタジイ) (プラチナ・ファンタジイ)
イアン・R・マクラウド:著 / 浅倉 久志 他:訳
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イアン・R・マクラウドという作家の作品を初めて読んだ。「夏の涯ての島」という短編集で、表題作も含め、あらゆる形式に則った愛の形が描かれている。その中でとりわけ、わたしの気持ちを強く掴んだのが、「ドレイクの方程式に新しい光を」だった。

生きるために目的を見出すのも人生、そして目的のために生きるのもこれまた人生だ。人の生きる道は、それぞれに誇り高く、そして美しい。そう思わせる作品だった。

ただ、7編ある作品のうち、ラスト2編の違和感がどうにも抜けない。5編で1冊にしてもらったほうが、余韻を邪魔せずよかったのではないだろうか。個人的な好みではあるけれど、そんな気がした。

2008年7月16日

ハローサマー、グッドバイ(Hello Summer, Goodbye)

ハローサマー、グッドバイ
マイクル・コーニイ:著 山岸 真:訳
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マイクル・コーニイ 1975年作品。サンリオ文庫でかつて出版されていたが、このたび待望の復刊・新訳作として話題を集めていた。

14,5 歳くらいだろうか、主人公のドローヴとブラウンアイズの瑞々しい恋愛譚を中心に、ひと夏の出来事が綴られている......という感じで2/3くらいまで 読み進めていた。が、しだいに怪しくなる雲行きに惹かれながら、ラストを迎えた。前半に描かれるような具体的情勢に比べるとラスト間際の描写は曖昧な感じ もする。読者にそのあたりの読み込みをゆだねているようにも思え、読み終えてもう一度そこだけを読み返さなくてはならなかった。ただし、読み返す価値はあ る!! これは深い。ラストの1行で救われた。鳥肌が立った。

文中で最後まで気になったのが、罵倒語の表記。たとえば「なんてことだ」のルビに「ラックス」とあったが、これは逆のほうがいいし、「氷結なたわ ごと」に「フリージングラックス」というルビもちょっと苦しいかも。その罵倒語の元になった世界観の描写はとても面白かった。なぜ異星人の住む惑星を舞台 にしなくてはならないのか、当初は少し変だなと思ったが、読み進めるうち、異なる世界を描くのに、こんなにぴったりの手法はない。

読後感としては、トーヴェ・ヤンソンの大人向け小説「誠実な詐欺師」や、バーコヴィチの「野うさぎ」を連想した。見たことも体感したこともない世 界を思うとき、行間を想像力で埋めてゆく。そんな作業がとても楽しい。ブラウンアイズのかわいらしさや、若い恋人たちのさわやかさが、ちくりと刺すような せつなさ、寂しさ、やりきれなさ(そしてラストのラストでのあの大どんでん返し!!!!)と溶けあっている。そんな小説だった。続編を期待しています。

2008年7月29日

ひねくれアイテム

ひねくれアイテム
江坂 遊
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星新一が見出した、「ショート・ショートしか書かない作家」江坂遊のショートショート集。1篇につき数ページで完結してしまうので、気軽に読める。ちょっと皮肉の効いたオチは、オムニバスTVドラマ「世にも奇妙な物語」が好きな方ならきっと気に入るだろう。

わたしが気になったのが、特に女性の話し言葉だ。昭和40年代の作家が書いたような印象だった。小道具は今を感じさせるものばかりなのに、どこか時代錯誤な感じがする。あと10年もすると、そのズレがもしかしたら奇妙な味わいになるのかもしれないが、今はちょっとしんどいなと思った。1篇が短いせいか、オチが推測できてしまう話の運びも物足りない。海外を舞台にしたショートショートが個人的には好みだと思った。

2008年8月15日

特別料理(Mystery Stories)

特別料理 (異色作家短篇集)
Stanley Ellin 田中 融二
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スタンリイ・エリンのミステリ短編集。ミステリといっても、犯罪が起きて、犯人を追跡して解決といったお定まりの手法は用いられない。ミステリにとって「殺人」は大きな出来事のはずであるが、エリンにとっては、それ以上にそこに至る過程や心理こそがメインである。ドラマチックに殺しの様子を描くどころか、一,二行の中にその行為がさらりと添えられているに過ぎない。

EQMMでも大絶賛されたという表題作「特別料理」はまさにスペシャルな味わいだった。一冊に十篇のも作品が詰め込まれており、あっという間に読み終わってしまうが、十篇が十通りの魅力を放っている点にも注目したいし、さすが「異色作家短編集」に納められているだけはある。九篇を味わったあと、添えられたラストのデザートは「決断の時」という短編で、このデザートの余韻はずっと尾を引くだろう。上質な短編ミステリのフルコース、召し上がれ。

2008年9月27日

Way to Normal

ウェイ・トゥ・ノーマル
ベン・フォールズ
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ベン・フォールズといえば泣かせるツボを押さえたメロディーラインと、パンキッシュなピアノプレイが象徴的だが、良くも悪くもベン・フォールズ・ファイヴ時代との境目がほとんどなく、そんなシンガー・ソング・ライターであるという印象をずっと持っていた。確かに発表されるアルバムごとに施された工夫は随所に見られるし、丁寧に作られている。それは確かなのに、ずっと聴いているとデジャヴかと錯覚を起こすこともある。

ところが、日本先行で発売された新作「Way to Normal」は、そんなベンの印象がこれまでとは違うように感じた。なによりも大きく異なるのは歌い方だと思った。健やかないつもの声を期待するが、すこし違う。ピアノの旋律も美しい、しかしどこか違う。

音楽的な専門知識を持ち得ないので、こう言っていいかわからないが、ベンはBF5のデビューから15年にして、エポック・メイキングたる作品を生み出すことに成功したんじゃないかと思った。リスナーが期待するいつものBF5的なものから距離を置き(あるいは別の立ち居地を見つけて)、ただただ好きなポップスやロックを違う方法で消化して具現化することに成功していると感じた。15年目にして達したこの境地、とは言うものの聴くものを拒絶することはなく、それどころか懐が深くなっているようにも感じた。ユーモアもばっちり、たっぷり。たいしたアルバムを作ったものだ。ベン・フォールズ史上、文句なしの傑作だと思う。

2008年9月28日

誘拐児

誘拐児
翔田 寛
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江戸川乱歩賞受賞作品ということで書店に平積みされており、POPでも結構賞賛されていたので気になって入手。話の運びがドラマチックで、読んでいて飽きさせない。ミステリの醍醐味を十二分に味わえ、充実の読書時間が堪能できた。青年と彼女と刑事二組が徐々に確信へと迫る描写は迫力すら感じた。

が、登場人物の二組(四人)の刑事の区別がつきにくかったのが残念。また、途中で犯人のめぼしがすぐに付いてしまった(だって他にいないもん)。いずれにしても、誘拐児が誰なのかがすぐにわかってしまうあたりで興味は半減してしまうことから、これって倒叙法で書かれたほうが面白かったんじゃないか......などとえらそうなことを思ってしまった。すごく面白かっただけに、読後感が「うーん、なんか惜しい」だったので、欲が出てしまったのかも。

2008年10月15日

クリムゾン・ルーム

クリムゾン・ルーム
高木 敏光
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一気に読ませる面白さがある。エンタテインメント性に富んだ力作。虚実入り乱れた感じがいい。

が、登場人物とエピソードが多すぎたきらいがある。たとえば、序盤で起きた出来事が、本編の重要な伏線なのかと思ったら、結局そうでもなかった、とか。途中でオカルト風味に話を展開したが、これがラストに生かされてないのはどうしたことかと思った。「憑いているなにか」にしても、「蕁麻疹」にしても、ラストに結局つながらなかった。不気味さや怖さを演出するなら、梁川がラストで働いた仕事だけで十分威力があったと思う。あと、どうしても気になったのが女性の言葉使い。これが昭和30年代の小説を読んでいるようで、違和感があった。しかしながら、キーパーソンであるKの描写はものすごくよかった。Kについてはもっと掘り下げてほしかったかも。

全体としては、若干とっちらかった印象がぬぐえなかった。次回作に大きく期待したい。

2008年10月28日

ソラリスの陽のもとに(Solaris)

スタニスワフ・レム、1961年の作品。映画「惑星ソラリス」と「ソラリス」の原作である。ハヤカワ版が1977年刊行(訳は飯田規和)なのに対し、国書刊行会版(コチラのタイトルは「ソラリス」。訳は沼野充義)は2004年。国書版はポーランド語原典からの新訳版で、ハヤカワ版はロシア語版を原典としたので、少々内容が異なるらしい。が、特に結末に大きく影響を及ぼすようなことはなく、冗長すぎるきらいのある部分がカットされてるのがロシア語版という情報だった。どちらを手にするべきか少々迷ったが、長く読まれているハヤカワ版を手にした。

長い物語であるし、ソラリスの「海」についての描写や研究書については相当ページを割いているが、登場人物たちがソラリスにやってきた経緯などは深くは語られていない。この曖昧さが却って50年近く昔の物語の劣化を防いでいるのかもしれない。そして、描写が非常に美しい。「海」の描写のなんと美しいことだろう。恋人・ハリーの描写のなんと儚いことだろう。

読み始めのとき、わたしは「地球的な価値観で」ソラリスを当てはめて、ひとつ謎解きでもしてやろうといった気持ちでいた。しかし、そもそもそれが大きな間違いだった。ラスト、ソラリスの海での体験の描写は、圧倒的な美しさだと思う。それから、恋する人にもオススメの小説。泣けます。

2008年11月 8日

消えた少年たち(Lost Boys)

オースン・スコット・カードのローカス賞受賞作品。クリスマスシーズンと言うこともあり、今(2008年11月)の書店で平積みになっている。

この作品を知ったのは、短編版の「消えた少年たち」の論争について書かれたものを読んだからだ。「日本SF論争史」の「伊藤典夫」の章がそれだ。実際に起きた出来事をフィクションに織り込んだ内容に、本国アメリカで批判の的になっていたところ、日本の伊藤典夫氏が擁護した。これが海を越え大論争となった......というものであった。このくだりが非常に興味深くて、これは是が非でも「消えた少年たち」をぜひとも読んでみたい!と思っていたところだった。

わたしが手にしたのは長編版で、上下巻に分かれている。上巻は、今で言うところのブラックな会社に就職してしまったために大変な目にあう一人のエンジニアの奮闘記と読んでよい。かなりリアルで、身につまされる人も多いのではないかと思った。また、全体を貫く夫婦の信念、モルモン教についてもすんなりと読めた。この宗教観は大きな柱ではあるが、この物語のテーマではないので、信者でなくとも読む上で障害になることはなかった。

下巻に入って、ようやくタイトルの「消えた少年たち」にふさわしい内容に移行してゆく。読んでいくウチに、だいたいコイツが怪しいなぁと推測はできたが、犯人探しが主軸のミステリではないので、そんなことはいい。とにかく、14章に尽きる。ここではもう涙が止まらず、涙で潤む紙面から目が離せず、嗚咽しながらページをめくった。こんな涙をいつ流しただろうと振り返ると「アルジャーノン」以来かもしれないと思った。(奇しくも訳者は同じ、小尾芙佐さん)

わたしを泣かせたラストの描写は、これまでの伏線がするすると鞘に納まってゆくカタルシスが静かに、そして穏やかに描かれている。壮絶なラストだと思った。しかしその筆はいたって穏やかで、感動的だった。背景に横たわる、ゆがんだ社会の描写をここまで痛々しく映し出しながらも、こんな風に穏やかに描ける力は本当にたいしたものだと思う。論争はともかく(興味はありますが)、実に良質なSF小説だと思った。

2008年11月12日

血液と石鹸(Blood and Soap)

ベトナム系作家、リン・ディンの短編集。一篇がとにかく短い。一ページに満たないものもあり、この表現方法はいかにも詩人らしいと思った。貧困に対する恨みがましさや、その恨み辛みでゆがんだ人間性を暴き出すような作品が多く、この手の「奇妙な小説」にはあまりないタイプと感じた。リン・ディンを指して「奇想の手前」と評した文章をどこかで読んだ。彼の紡ぎだす文章表現が特徴的であって、描き出される世界観が奇妙奇天烈ではないということだろう。皮肉さと自虐がうまく混ざり合った、しかし読後感は決して悪くない不思議な感触の本。

2008年11月29日

氷(Ice)

アンナ・カヴァン、死の前年に書かれた長編。85年にサンリオ文庫から出ていたものを、同じ訳者による大幅な改訳が施され、今年リリースされた。夏に出た本だと思うが、この本を本当に読むのにふさわしいのは今の時期なんじゃないだろうか。寒い、凍えるような季節がいい。

自身に酔いしれるような男の、身勝手とも取れる行動が延々と綴られており、現実と幻覚が何の前置きもなく入り混じる。この描写に読者も酔うことになる。文章に翻弄されて、その高揚感にともに流される体験が満喫できた。

登場人物にはひとりも名前がない。彼らの行動は、実に自分本位でありながら弱々しく、痛ましさすら感じるが、氷と雪に覆われた世界とあいまって、読む間、ずっと不安な印象を抱き続けた。また、具体的な国名なども当然ないが、極寒の地に、氷に覆われていく世界の終わりを描き出した筆致は果てしなく美しい。夢野久作「氷の涯」のラストを髣髴とさせる。印象的だった。

カヴァンの生涯の壮絶さはともかく(解説に詳しい)、個人的には改訳版を出すに至った経緯などを記してくださった山田さんの訳者あとがきがとてもよかった。拍手。

2009年1月 2日

夜の果てへの旅(Voyage au bout de la nuit)

夜の果てへの旅
Louis‐Ferdinand C´eline 生田 耕作 訳
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ヴォネガットが「スローターハウス5」を書く際に着想を得たと言われる、ルイ・フェルディナン・セリーヌの文壇デビュー作。1932年の作品。日本語版は1994年に訳者が没する直前まで手を入れ続けたもので、渾身の一冊と言ってよい。(上下巻なので二冊ですが)。独特の言い回しが特徴的で、はじめはこれおもしろいだろうか、読み通せるだろうかと不安になっていたが、この奇妙な文体に慣れていくうち、どんどんはまってしまった。

半自伝的小説らしく、主人公の名前もフェルディナン、作者と同じ名前を持つ若者である。貧困に対する、どうしようもないほどの諦めと憎悪がリアルに迫ってくる。追い詰められた境遇にあって、人がどんなに美しく生きるのかを説く小説が多い中、セリーヌはずばり貧困のもたらす、膿み爛れた人間性を暴き立てる。

主人公のフェルディナン・バルダミュは、ごくごく普通の青年だと思うし、才能もないわけではない。バルダミュの人生を追いかけると、彼の人生は言うほど爛れたものではないし、なかなかうまくやっている方ではないかと思う。ただ、バルダミュを取り巻く人々はどうもそうとは言い切れないものがあり、人生っていうのは、当事者の才能そのもの以上に、取り巻く環境が大きいのかもしれないとつくづく思った。違った環境に行けばもっと自分自身が発揮できるかもしれない、もっと幸せになれるかもしれない、と放浪生活を続けるバルダミュの姿勢は、現代人にも当てはまるだろう。

そして、バルダミュの人生に影のようにつきまとったロバンソン。読むうちに、この老人の姿が一人の作家と被って見えた。その作家の名は、キルゴア・トラウト。ロバンソン・レオンとは、もしかしてキルゴア・トラウトのことなのだろうか。「タイムクエイク」で、ヴォネガットが用意したトラウトの末路が孤独ではなかったことは、回り回って幸せなことだったんだなぁと思った。

2009年1月21日

スプーク・カントリー(Spook Country)

スプーク・カントリー
ウィリアム・ギブスン 浅倉久志
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ウィリアム・ギブスン2007年の作品。「ニューロマンサー」「ディファレンス・エンジン」などの名前は知っていたけど、今までギブスンはずっと読んでこなくて、今回初めて読了した。何故かものすごく時間がかかった。

ホリス、チトー、ミルグリム三者三様の視点で物語が進み、徐々に彼らの中核に近づいていき関係がわかったとき、あっという間にクライマックスを迎える。物語の運びはスロースターターで、徐々に加速度が増し、ラストは華々しい。そしてラストの着地はとても穏やかだった。細かな点では、チトーが逃走するシーンの展開がとても好きだ。

読んで気になったのは、「臨場感アート」の存在。物語は2006年の設定で、臨場感アート以外の描写に関しては、現代のアートシーンやカルチャーで普通に使われているテクノロジーが縦横無尽に登場する。ところが、「バイザーを被ることで立体視によるインスタレーションを様々な場所で体感できる」技術は、2009年現在でも普及していない。ディズニーランドやテーマパークに行ったら近いモノは体感できるかもしれない。しかしながら、少なくとも新宿の街にそういったインスタレーションが発生する可能性は、少ない気がしてリアリティを感じなかった。そこが実は残念だった。

2009年2月15日

TAP

TAP
グレッグ・イーガン 山岸 真:訳
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グレッグ・イーガン 日本オリジナル短編集。2008年。編訳は山岸真さん。

奇想コレクションにハズレなし! 恥ずかしながらこれまでグレッグ・イーガンを読んでこなかったので、この本が初イーガンとなったが、これが最初で良かったなぁと思った。

最初の最初に目にすることとなった「新・口笛テスト」が文句なしのおもしろさ。編訳者あとがきには「のちの作品なら理屈もテクノロジーの影響ももっと偏執的に書きこむはず」とあり、うむむ、そうなのか!と、とても感心した。作品ごとに解説が書かれていたので、一編読んでは解説を読み、というのを繰り返して読み進めたが、これがとても理解の助けになった。

イーガン本人がプログラマという職業柄もあると思うが、テクノロジーの描写に無理がなく、実際に使われている技術とイーガンが想像(創造?)した技術の境界線が自然に融合していて、『少し位相のずれたIT社会』といった感覚が面白かった。「銀炎」「要塞」「TAP」はその中でもおそらく『ハードSF作家・イーガン』らしさが現れた作品なんだろうなーと思った。奇想色の強い「悪魔の移住」「散骨」「森の奥」が特に好きだ。とても楽しい一冊だった。

2009年2月27日

サイのクララの大旅行(Clara's Grand Tour)

サイのクララの大旅行―幻獣、18世紀ヨーロッパを行く
グリニス・リドリー / 矢野 真千子:訳
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時は18世紀、ヨーロッパに住む人々は、まだホンモノのサイを見たことがない。そんな時代に大陸大移動を行った、サイのクララを巡るノンフィクション。

当然のことながら、18世紀と言うことで写真はない。残っているのは、当時の画家たちが描いた絵だけ。しかも、巡業主のヴァン・デル・メールは日記を残していない。筆者のグリニス・リドリーは、クララを見て感動した人々が残した、たった一行のサイに関する記載までを丹念に拾い集め、つきあわせ、つなぎ合わせた。そして想像力の翼を大きく広げ、その記録同士の隙間を埋め、情景を浮かび上がらせる描写に成功している。明確な記録が儚いことは、ノンフィクションとしての力が弱いことかもしれない。が、そのあやふやさ故か、読者は夢うつつにこの物語を読むことが出来る。ノンフィクションでありながら、どこか幻想的だ。

たとえば、縁あってサイを手に入れたヴァン・デル・メールが、日記を残していない以上、彼が日々どんな気持ちでサイのクララと接していたかはわからない。動物好きなら、できるなら愛情を持ってクララと接して欲しいと願いながらページを繰るが、筆者はその願いに応えるヒントを探し当て、間違いのない証拠として提示する。この結論付けは、人によっては主観が入りすぎてやりすぎに感じるかもしれないが、わたしはとても気分が良かったし、優しく暖かく、ちょっぴり切ない気持ちになった。

また、ヴァン・デル・メールが、いかにして育成方法も確立していないサイの健康を維持し、3トンの巨体を持つサイを20年近くつれ回れたのか、どんな風に人々の期待感をあおったのかなど、マーケティング成功例としても読むことが出来、とても興味深かった。

難を言えば、参考画像が少なかったこと。絵を比較する記述が何か所かあったが、想像力にも限界があるので、比較の片方だけではなく、なんとかして双方を入れて欲しいと思った。造本は美しく、クリーム色の紙の上に、ブラウンの刷り文字が目に優しい。ページの端に、いつも愛らしいクララがいたのもとても良かった。ヨーロッパグランドツアーに同行できる、そんな素敵な一冊。

2009年2月28日

雪男たちの国(Land of the Snow Men)

雪男たちの国
ノーマン・ロック / 柴田 元幸:訳
4309205151

不思議な物語だった。この記録を書いたのは、ジョージ・ベルデンという建築家で、ベルデンが合流したスコット隊は実在した南極探検隊である。しかし、編者であるノーマン・ロックが「偶然発見」した、この手記の筆者・ベルデンという人物、どこまでが本当なのか。そもそも、スコット隊が凍死したのは1912年で、ベルデンがスコット隊と合流したのは1913年である。眠りにつくときはフィラデルフィアで、目が覚めたら南極だった、という主張もおかしい。そして、物語で起きたことはあらゆることが「幻想」と言い切っても良いだろうし、挿入されているベルデンの絵画も、建築家のものと言うより、DADAのようにシュールだし、不安を誘う。

「物語」とはこうでなければ、と思う。作者は(あるいは読者は)おぼつかない足取りで、現実と非現実が曖昧に溶け合う境界線上を辿り続ける。この筆が、ベルデンによるものなのか、ベルデンの筆を借りたロックという作家のものなのかは、どうでもいいのかもしれない。が、この「とらえどころのなさ」は、幻想的な氷の涯てでおきた不可思議な出来事に、より鮮烈な印象を植え付けるのに大きな役割を担っているのは間違いない。寒い季節が一番似合う「物語」。

2009年3月 8日

ハーモニー

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
伊藤 計劃
415208992X

善意の押しつけと癒しがはびこる「今」を生きる作家だからこそ書ける文学だと思った。このラストの残酷さは比類がないと思ったし、この美しさは見たことがない。想像の先を行く恐ろしさ。映画化されるんじゃないかな、と読んでる間はずっと思ったが、このラストを表現できる手段がないように思った。いろいろな意味で非常に「恐ろしく美しい」作品。

ただ、この時代背景が没個性を強いられているからかもしれないが、登場人物に魅力が今ひとつ欠ける気がした。感情移入できないし、人々の表情が浮かばない。このラストの深い表現力があるせいか、どうしても浅く感じられてしまい、そこが唯一(しかもかなり)残念だった。

2009年3月13日

Boy's Surface

Boy's Surface (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)
円城 塔
4152088907

あまりにも難解で意味不明とあちこちで謳われていたものだから、なんとなく手が伸びなくてうだうだしていたが、「本の雑誌」での円城氏の連載がとてもユーモラスでいい文章なので、食わず嫌いは良くないよねぇと思い、短編集を手に取ってみた。

......とても面白かった! 敬遠していた時間を返して欲しいよ。こういう作家が日本人にもいるって言うのが嬉しいじゃないですか。

子供の頃、目を閉じた世界って言うのはきっと有象無象がうごめいているに違いないとか、わたしが見ているこのカタチはあなたが把握しているものとは実は違っているんじゃないかとか、そういう想像って誰もが抱いたと思うし、未だにそういうことって延々考えることがある。人に話すと、そうかなと一蹴されてしまうことも多いし、逆に説明されてしまっても、納得いくものではない。といった「空想の世界」をまんま小説の形にして、エピソードにして盛り込んだのが円城 塔だと思う。ギャグもたくさんあった。笑いどころも満載だし。かつてYMOの「BGM」が登場したとき、これは理解できないと眉をひそめた人がたくさんいたことを思い出した。

エピソードがあちこちに飛ぶ手法は、後期ヴォネガットに通じるところがあるかな。不覚にも四本目の「Gernsback Intersection」のラストではじわっと涙が。切なかったです。ひとつだけ、四本目のレオナルド・ロンドンは一本目に出てきたベンジャミン・ロンドンと同じ名前にしておけば良かったのに、と思った。

2009年3月16日

魚神

魚神
千早 茜
4087712761

小説すばる新人賞受賞作品。若い作家さんによる、美しい筆運びが魅力的だった。幻想的で、うっとり世界観に浸りながら読み終えた。幻想的な登場人物たちや世界観が圧倒的な魅力なのだが、作者はあまり幻想に行きたくなかったのか。キャラクターたちが幻想に走ろうとするのを、作者が引き留めているような印象が最後まであり、もっと思い切った展開にしても良かった気がした。大事な場面転換の度に、主人公が意識を失う展開はご都合過ぎたかも。とはいえ、一気に読んでしまうすごい魅力がある。次回作に大きく期待!

2009年3月22日

ポルトガルの四月

ポルトガルの四月
浅暮 三文
4152090049

いい小説に巡り会えたなーと思った。登場人物も魅力的、シチュエーションも面白い! くさい食べ物で記憶が戻る手法も新鮮で、飽きない展開だった。ばかばかしくなりがちな展開を、いい案配で押さえ込んだ手腕が最後まで冴えてて、ラストのオチまで楽しく読めた。

わたしは昔から小林信彦のオヨヨ大統領シリーズが大好きなんだけど、この小説にはオヨヨ大統領的なテイストが多分にあると思った。ぶっ飛んだ展開も、お約束過ぎるアクシデントも、それはないだろー?と言いたくなる出会いも偶然も、全部ひっくるめて許せてしまう。特に、ウィミンの素性がわかったとき、あ!と膝を打った。縁は奇なもの、粋なもの。浅暮三文氏の大ファンになりました。

2009年5月 5日

楽園への疾走(Rushing To Paradise)

楽園への疾走 (創元SF文庫)
J.G. Ballard 増田 まもる
448862913X

バラード1995年の作品。おっそろしい小説だった。実はだいぶ前に読み終わったのだけれど、しばしボーゼンとして、レビューが書けなかった。とはいうものの、今も書けるような心理状態ではないので、もしかしたらレビューは改訂するかもしれない。

ひとつの運動がうねりのように変化して、どんどん位相がずれていく様子は、もう壮絶の一言。ああー、だめだ、これ以上書く言葉が見つからない。近年まれな衝撃を受けた一冊。

虐殺器官

虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
伊藤 計劃
4152088311

「ハーモニー」から先に読んだので、順番がちがうけど、伊藤計劃さんはラストが毎度すごいなぁと思った。このラストはとてもいい。

いいのだけど、話を運ぶ課程での主人公の心象風景が、なんというか中2病みたいで、どこか絵空事のような感触がぬぐえなかった。この読後感は「ハーモニー」にも通じていた。

虚無感が全編に流れる小説はこれまでもあったけど、伊藤さんの作品には独特な青臭さがある。ほんとうに残念。この作家は、死んではいけなかったと思う。年を取ってから、どんな作品を書くのかが本当に気になる人だ。謹んで哀悼の意を捧げたい。

2009年5月21日

忙しい日でも、おなかは空く。

忙しい日でも、おなかは空く。
平松 洋子
4532166683

椅子とテーブルのある書店で休憩中に偶然手に取った。ワタクシ、エッセイの類は苦手なので普段は手に取らないし読まないのだが、装丁の手触りが気になってつい手に取ってみたところ、最初の文章からして実にいい。ただの塩トマトが、実に実に美味そうに描写されているのだ。

書いてあることに嘘がなく、そして見栄がない。(この手の本で「見栄がない」ってとても重要だと思う)。美味しいモノをいかに美味しく頂くかに心を砕く。時には遠回りをして見つけた美味しさに膝を打つ。そして、遠回りをしたことの意義を見いだす。トーンを抑えた写真も素晴らしい一冊。

2009年6月 8日

百億の昼と千億の夜

百億の昼と千億の夜
光瀬 龍
4150300062

これまで読んだことのない程に壮大な物語だった。正直なところ、もう一回読み返さなくては、と思っている。読み込みが足りない。もっとちゃんと読まなくては、と反省している。読み飛ばしたわけではないが、展開が気になって、先を急いで読みすぎてしまった。読み飛ばしてはいけなかった。そのラストにショックを受けた。

そんな状況なので、感想らしい感想が書ける状態ではない。けれど、一つだけ言えるとしたら、果てしなく続くその「終末」に息をのんだ、ということだけだ。「無」と「終」は違うものなのだけれど。

2009年6月10日

忌野清志郎 1951-2009

忌野清志郎 ロッキングオンジャパン特別号―1951-2009
4860520815

キヨシローの訃報の後に、見聞きするキヨシ像は、なんだかどこか違う気がしたけど、これまでのインタビューを年代順に収録した本誌を読んで、キヨシのちょびっと嫌なところも含めて、わたしが知ってたキヨシだなぁと思った。例えば「Covers」のコンセプトで否定の姿勢を続ける渋谷陽一との対峙とか。ひりひりくるようなやりとりが印象的だった。キヨシローの言動には矛盾がいっぱいあった。言葉が足らないのか、気持ちに理性が追いついてないのかわからないけど、そんなとこもひっくるめてキヨシだったなって。

この雑誌、広告を一切載せなかったのもスゴイと思うんだよ。何度でも読むよ。一生保存するよ。

それから。チャボのインタビューを載せてくれてありがとう。話してくれてありがとう、チャボ。 感謝します。

2009年6月13日

1Q84

1Q84 BOOK 2
村上春樹
4103534230

スペキュレイティブ・フィクションだったね。

ところで、Book3以降はないと思う。あってもいわゆる「続き」ではないように感じる。普通にいい終わり方だと思った。作者の本意はよくわからないし、もしかしたらBook3が出るのかもしれない。けど、これで終わりでもちっともおかしくないと思った。ただ、事細かに描写した以上、読者からその伏線の回収を求められてしまうのは仕方がない。置き去りになったあれやこれやについては、正直、どうでもいいような気がすごくするのだ。普通に読めば、1000ページも費やして語られる以上、ちゃんと落としどころをつけてほしいと期待されるのは仕方がないのかもしれない。もっと説明を省いてよかったのかな。深読みの楽しさを味わうには、冗長すぎたのかも。

2009年6月20日

ロング・ドッグ・バイ

ロング・ドッグ・バイ (ミステリーYA!)
霞 流一
4652086326

これは楽しい! 犬と犬のオーナーの名前が一杯出てくるけど、犬の書き分けがすばらしい。脳内でごっちゃになることはなかった。(オーナーの名前はちょっとごっちゃになったけど)。

トリック(?)の種明かしの過程なんて結構骨太なミステリでびっくり。そんでもって、カバーを取ってもカワイイです。続編も期待できそう。文字も大きめなので、ローガンズな方々にもお勧め。ワンモア!

2009年6月21日

人くい鬼モーリス

人くい鬼モーリス (ミステリーYA!)
松尾 由美
4652086261

本当に素晴らしい小説で、今年読んだ本No.1だ。(去年出た本だけど)。知らないことで損することっていっぱいあるなぁ。知って良かった。読めて良かった。

夏休みの季節に読むと本当にぐっとくる。つまり、読むならまさに今の季節がオススメ。そして、あのセンダックのあの絵本を知ってる人ならイマジネーションがぐっと増すだろう。17歳と10歳の少女の友情も素晴らしい。物語の着地も穏やかで優しくてちょっぴり切ない。そう、こういうのを「物語」と呼ぶんだ!と思った。切なさと穏やかさと、時に激しさが迫ってくる。リアルだと思う。

これほどまで装丁と中のカットが本文のムードを盛り上げてくれる本はないと思う。一冊の本としての作りがとても美しく、丁寧で、すばらしい。贈り物にもいいんじゃないの!?

ヤングアダルトのジャンルを大きく超えて、全ての人に勧めることが出来る名作。書き出しを読み始めたら、止まらないと思う。

2009年7月 4日

オチケン、ピンチ!

オチケン、ピンチ!! (ミステリーYA!)
大倉 崇裕
4652086334

第1作目「オチケン! 」じゃなくてコッチを先に読んでしまった。どうやら続編らしいのだけど、あまりその辺は気にならなかった。とても面白かった! いいなぁ大学生活。そしてキャラクターがいい。中村がかなりツボであった。落語の引用も楽しくて、ぐんぐん読ませる。あっという間に読み切ってしまった。二つのお話しが入っているんだけど、このラスト、これまた続編があるってぇことかい!?

今のところ「ミステリーYA!シリーズにハズレなし!」状態が続いている。爽やかな読後感、充実感は、ミステリの可能性をうんと広げてるように思う。(読者層はずいぶん異なるけど)SFの可能性をうんと広げている「奇想コレクション」に近いモノを感じる。こっちも「ハズレなし!」なんですが。「オチケン!」読まなくちゃ。面白かったんだよぉ。

2009年7月 9日

渚にて(On the Beach)

渚にて【新版】 人類最後の日 (創元SF文庫)
ネヴィル・シュート/佐藤 龍雄
4488616038

人類最期のときが迫る中、どう生きるか。これが最近のハリウッド映画なら、無法地帯化して、人々は残らずパニックになって、ぎゃあぎゃあとやかましい内容になっているような気がするが、この小説は最期まで穏やかだった。家庭を持つ者、持たない者、そして失った者。それぞれが選択した最期のときは、それぞれに愛おしいものだった。

もし余命を宣告されたら、どう残りの人生を過ごすか。それを考えたことは誰もがあると思う。この小説で提示された最期の過ごし方は、とても理性的で、とても穏やかで、尊厳に満ちていて、優しくて、人間味に満ちていた。静かな、穏やかな小説だった。

ただ、主人公がいつの間にかホームズからタワーズにすり替わっていたこととか、出てくる女性陣の誰にも共感がもてないとか、根本的なツッコミはある。しかしながら、それを凌ぐ魅力があると思った。タワーズが家族のお土産を買うシーンでもう涙、涙。ホッピングを見たら「渚にて」を思い出すに違いない。関係ないが、タワーズのことはずーっと脳内でデヴィッド・バーンの容姿に変換されていたことも記しておく。

2009年7月23日

少女たちの羅針盤

少女たちの羅針盤
水生 大海
4562045027

原書房さんのプレゼント企画に応募して送っていただいた本。でもレビューは普通に書くのだ。

とてもよかった! 青春群像劇、という言葉があちこちで聞かれるが、その評価はホントだった。高校生たちのみずみずしい青春、とってもいい! 周囲を徐々に巻き込んで、劇団の評価を上げていくその過程。ああ、いいなぁ、青春万歳だ。

4年前と現在が交差するカタチで物語が進行する。「過去」のパートは三人称、「現在」のパートは一人称で書かれていた。ここで一番気になった点は、「過去」パートのメインになる人物が4人いて、くるくると物語の主眼が変わるところだ。そのせいで、感情移入がしづらく、読みづらかった。劇団「羅針盤」の4人はそれぞれに魅力的なのだが、おそらく、「現在」のパートで一人称で語っている「わたし」が誰で、殺されたのが誰かを、読者に推測させるため、あえて三人称で話を進めたのだと思う。けれど、「現在」と同様に、一人称で進めても良かったんじゃなかろうか。語り部がその都度入れ替わるだけだし。と思った。

ラストはキレイに収まってる気がするが、もう少しどんでん返しがあっても良かったかも、と思う。といった部分を含めても、とても楽しくラストまで一気に読めた。いやー、いいなぁ。実に青春だねぇ。4人のバックグラウンドが上手い具合にラストに持ってきてる感じも良かった。どうするんだろう、こんなに脱線して、と思ったけど。いやいや。なかなか。

2009年7月27日

ダブリナーズ(Dubliners)

ダブリナーズ (新潮文庫)
James Joyce
410209203X

すっごくよかった。こういう市井の人々の何でもない毎日の、何でもない出来事に喜怒哀楽が凝縮されている。そんな話が本当に好きだ。成功を収めて意気揚々としている(ように見える)友人との再会の後、自身の夢破れた現実を苦々しく受け入れるような、そんな人間模様。誰だってきっと涙するんじゃないだろうか。じわっときた。人生とはなにか。ささやかな暮らしとは何かを、静かにかみしめながら読んだ。

そして、「ダブリン市民」をあえて「ダブリナーズ」と改称した、訳者・柳瀬尚紀氏の情熱がいい。翻訳モノが私は大好きなんだけど、やはり訳者後書きが長いもの、熱いものが嬉しいのだ。情熱と愛情をぎっしり詰め込んだ仕事ぶりを熱く語ったこのあとがき、いつか読んだディレイニーの「アインシュタイン交点」を訳した伊藤典夫氏のあとがきに迫る熱を感じた。すばらしかった。

証言! 日本のロック70's

証言! 日本のロック70's ニューロック/ハードロック/プログレッシヴロック編 (単行本)
4903951154

70年代を牽引してきたミュージシャン自らが当時を振り返ってトークを展開する、といった対談集。70年代はさすがにリアルタイムではないのだが、80年代がリアルタイムだったわたしにとって70年代は遡って聴いてきた時代の音なので、ついて行けなくはなかった。

それにしても当時のミュージシャンはみんなタフだけど、聴き手がそれに負けないくらいタフだったのもよくわかった。「時代」ってそう言うことなのかな、と変なところで感心してしまった。彼らがいつも戦ってきたのも、音楽に対してひたすらに真摯だったからなんだろう。80年代とはかなり空気が違う気がする。このあたりは、ぜひとも続編の80年代篇を期待して待つことにしたい。

それにしても土屋昌巳氏がそうだったとは知らなかった。彼はてっきり80年代を語る人だとばかり思っていたら......。面白いですねぇ。

2009年7月28日

多聞寺討伐

多聞寺討伐 (扶桑社文庫)
4594059228

時代モノSF、ということで、江戸の情緒が一杯、気持ちのいいやりとり、お色気もいい案配で、最後までとっても楽しい一冊であった。基本、タイム・パトロールによる活動がオチになっているのでワンパターンな印象はぬぐえないのだけど。現代から過去へするりと移りゆく構成の「歌麿さま参る」が特に良かった。

2009年8月26日

ユダヤ警官同盟(The Yiddish Policemen's Union)

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)
Michael Chabon
4102036113

8月はこの本にかかりきりだったと言っても過言ではない。今月の上旬に上下巻とも読み終えたものの、その展開が気になって読み飛ばしたせいで、いまいち登場人物たちの行動の源が把握できず、釈然としなかった。そこで、もう一度、今度はじっくり腰を据えて読み直したのだが、読み直して大正解だった。この本は、深い。

まず、なんといってもあまりに自然すぎて、初読では「歴史改変物としての凄味」に重きを置かなかったのだが(もう台無し!!)、第2次世界大戦でドイツが戦勝国となったことから始まるのだ! つまり、ユダヤ人にとって、それは解放を意味しない。あまりにも大きな出来事を示唆している。舞台となっているシトカはアラスカ州のユダヤ人自治区で、戦後60年を経て、あと数ヶ月で自治区は解散。アメリカに返還される。ユダヤ人はどうする? どこかへ移り住むしかない。どこへ? 訳者あとがきで、ディックの「高い城の男」が引き合いに出されていたけれど、そうだよ、ユダヤ人の末路はシェイボンが描いたような状況になっていてもおかしくないはずだ!

と、再読して改めて呆然とした。そこをしっかり見据えて、そのうえで、ユダヤ人を支えているユダヤ教にも目を向けながら読み進めた。救世主の出現を待ち続けているユダヤ人、救世主はどこから来る? どこにくる? どうやって降臨する? そんなことがぎりぎりと絡み合って、物語が展開する。日本人にとってなじみの深い宗教は仏教と神道だけれど、土地を追われる悲劇もないし、救世主という概念も違う。宗教の成り立ちが圧倒的に違う。だから、なかなかぴんとこないのだと思う。大離散を歴史上、何度も経験してきたユダヤ人のアイデンティティについて、もっと論じる場所が必要だろうし、あるいは詳しい解説書があればいいと思う。詳しい人がBlogで解説を書いてくださるのを待ちたい。

アイデンティティについて触れたけれど、この物語は、それを求めてる人間の物語と言い変えてもいいと思う。主人公のマイヤー・ランツマンもそうだし、メンデル・シュピルマンは別の立場ではあるけれど、そうだったと思う。いやもう、なんて言っていいか。それにしても、メンデルとナオミ、回想シーンにしか出てこないのに、なんとも愛着のわく人たちだ。特にメンデル、切なかった。

それから、これは書いてもネタバレにはならないだろうと思うけど、上手いなぁと思ったのは、デニス・ブレナンの立ち位置。いやもう、なんというか、これって因縁なんだろうなぁ。

「SFと思ったら違った」と書く人がAmazonで多いけど、ここまで大きく歴史を改変してるのに、なんでSFと呼べないのか、そっちのほうが疑問。今年一番おもしろいSF小説だった。おそらく、この先も再読すると思う。ランツマンやベルコやビーナにまた会いたいから。彼らの粋でしゃれた会話に浸るだけでも読む価値がある。ハードボイルドを臭くない日本語に置き換えた翻訳が非常にすばらしかったことも付け加えておきたい。

余談だけど、コーエン兄弟による映画化の際、タイトルを「ハードボイルド・ワンダーランド」とかに変えるのだけはやめてほしい。漫画化するなら浦沢直樹氏にお願いしたい。浦沢氏はドイツ人を描かせると世界一上手い。

ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫)
Michael Chabon
4102036121

音楽は自由にする

音楽は自由にする
坂本龍一
410410602X

このあいだ、World Happinessに行ってきて、すごく楽しかったのだけれど、イベントと前後して坂本龍一がTwitterでYMOのリハの様子などをつぶやいてくれたのがまたよかった。ここ近年の教授は、なんだかいい感じだなと思っていたけれど、YMOの公演、それはそれはすばらしいものだった。わたしはこの人たちが好きでよかったし、同じ時代に生きていてよかったと再認識したイベントでもあった。

そんな幸せな時間から1週間後、たまたま書店で見かけた教授のインタビューをまとめたこの本が気になって、あとから通販で買えばいいかなと一瞬思ったけれど、その場で手にしてレジに向かった。買うべきだと思ったので。そしたら、ホントいい本だった。

幼年期から最近に至るまでの人や音楽、できごとが順番によどみなく語られていて、とにかく楽しかった。YMO散開のくだりは再確認といった感じだったけど、スケッチショウ以降の教授と二人との接近ぶりがもう嬉しくてね。中華料理の円卓を細野さんとユキヒロが囲んでいる「YMO再結成」と題した写真もすばらしい。インタビュアーに対して大きな信頼を寄せている旨はあとがきでも触れられていたけど、教授が取り上げた題材について、深追いがない構成はその証かなと思った。そのせいか、物足りなさもないわけではない。けれど、故人でもないわけだし、これはこれでいいんじゃないかなと思った。「今」の教授が教授自身を丁寧に切り取って「はいっ」と差し出してくれるような。そんな印象の本だった。

YMO再々結成、本当におめでとうございます。いえ、ありがとうございます、かな。これからも健康で。

2009年8月27日

捨てるな、うまいタネ

捨てるな、うまいタネ
藤田 雅矢
487290155X

春に食べた枇杷がとてもおいしくて、タネがぷりぷりしていたので、ちょうど何も植わっていないプランターがあったので蒔いてみた。ノリで3粒ほど。そしたら、芽が出たのだ。長い間うんともすんともいわなかったので、ほとんど放置していたのだが、みごとな芽が出て今もすくすくと育っている。

というような話を某所でしたところ、なんと枇杷は発芽率が高いと言うことであった。種蒔きの名著ということで、藤田 雅矢氏のこの本を知り、早速入手してみたが、これがまたとてもいい本だった。 タネとは生命。生ゴミ処理機に入れても砕けないし、やっかいだなぁと思っていたが、この本を読んでからはがらりと方向転換した。今、我が家の冷蔵庫にはスイカ、モモ、プルーンのタネが来年の種蒔きの時期をまつべくひっそり保管されている。野菜や果物を買うときは種が取れるかどうかも重要な判断基準となっている。そんな風に変わる本、なかなかないと思う。

巻頭の写真も楽しいし、イラストも可愛くて、しかもすごくわかりやすくていい。

2009年9月 2日

ノパルガース(Nopalgarth)

ノパルガース
ジャック・ヴァンス
4150117225

自称(若干他称)伊藤・浅倉チルドレンとしては、伊藤典夫新訳の文字が躍るだけでも手に取らないわけにはいかない。というシンプルな理由で四の五の言わずにさっさと入手して読み始めたジャック・ヴァンス。

......えーと。

いや、結構おもしろかったのだ。短い時間でさくっと読めるし、途中の二人の学者同士の試行錯誤はなかなか読ませる。うーん、もっとはっきり言えばおもしろかった。ただ、この作品単体で文庫化するのはどうなのかなぁといった印象。他のヴァンス作品か、もしくは「バカSF傑作選」みたいなアンソロジーとかで、分厚い本に収録するうちの一篇にするくらいのほうがよかったような、という印象。

ただ、これを発掘した訳者の真意については、あの時代の古き良きSFを愛好した人にしか理解し得ないのかもしれない、とも思った。相変わらず熱い訳者あとがきを読んで、なんとなくそんな気も。や、たまにはいいかもしれない、こういうのも。

2009年9月15日

麗しのオルタンス(La Belle Hortense)

麗しのオルタンス (創元推理文庫)
ジャック・ルーボー
4488188028

久しぶりに人を食った小説に出会って幸せ! このしっちゃかめっちゃかぶり、ヴォネガット「チャンピオンたちの朝食」を彷彿とさせる。ただし、ヴォネガットにはペーソスがあるけど、ルーボーにはウィットがある。フランス人恐るべし。そして、訳者も遊んでいる。すばらしいね。登場人物は誰も彼もが適当で、性格と呼べるものがない、そのあたりもヴォネガット的だと思った由縁かと。

オルタンス3部作、あと2作品も訳されますように。楽しみだなぁー。

2009年9月28日

ロボトミスト(The Lobotomist)

ロボトミスト
3400回ロボトミー手術を行った医師の栄光と失墜

ジャック・エル=ハイ 岩坂 彰:訳
4270005165

そのタイトルのまがまがしさに惹かれ、書店で山積みになっていた1冊をすこし立ち読みして、迷ったけれど結局購入した本。「ロボトミー」と聞くと、「未来世紀ブラジル」のラストシーンが思い起こされたが、実際どういうことなのかは知らない。まえがきを読んで、本当のところをわたしも知りたいと思ったのだ。500ページほどの大作ではあったが、実に興味深く読むことができた。

ウォルター・フリーマンの仕事に対する姿勢は紛れもないプロフェッショナルだと感じた。ただ、それは命を預かる仕事の人には当てはまらない。チャレンジ精神、功名心、失敗を恐れない前向きさは、芸術家であればプラスに働いたことだろう。しかしながら、フリーマンは芸術家ではない。

それにしても、生涯に手がけた患者すべての施術後の経過を追跡調査する姿勢には驚くばかりだ。30年以上も、患者の経過を気にしてくれる医師が一体どのくらいいるだろう。自身の施したロボトミーが、いかに患者の社会復帰に役立っているかを証明するためのデータ集め、という側面は紛れもないが、だからといって2000枚のクリスマスカードを患者に送り、返事のあった半数の患者一人一人にさらに手紙を書くその姿勢にわたしは打たれた。

実は読んでいる間、ずっと思い出していたのは夢野久作の「ドグラ・マグラ」とJ.G.バラードの「楽園への疾走」だった。マッドサイエンティストを描く点において三者は共通している。しかしながら、この本に描かれていたのは、サイエンス・フィクションではなく、紛れもない「現実」だった。その違いに最後の章「亡霊」で打ちのめされるような気持ちがした。

2009年9月29日

魚舟・獣舟

魚舟・獣舟 上田 早夕里
433474530X

奇想だった。短編の良さがぎゅぎゅっとつまった良い本。書き下ろしの中編「小鳥の墓」も読み応えがあっておもしろかった。ただ、SF的なガジェットやテクノロジーの描写は必要ないと思った。読み手の推測にゆだねていいのでは。作者はもっと世界観におぼれて描いて欲しい。会話が堅苦しいのも残念。と、その2点を差し引いてもおもしろかった。特に「くさびらの道」は白眉。

2009年10月 6日

星の綿毛

星の綿毛 藤田 雅矢 (著)
4152085266

もうとにかく世界観がすばらしかった。さすが農学博士!と膝を打ちたくなるような自然の描写は圧巻の一言。とにかくスケールが大きい。テクノロジーの説明はそんなにしなくてもいいんじゃないかなぁ。

2009年10月19日

日曜日の空は (Come Sunday)

日曜日の空は (ハヤカワepiブック・プラネット)
Isla Morley
4152090308

かなりしんどい小説だった。アビーが娘を失って、その苦しみを「怒り」に変えて、周囲にいる優しい人々に容赦なくたたきつける姿は、もう本当に気の毒としか言いようがない。喪失が大きすぎて滅茶苦茶とも取れる行動をする辺りは本当にリアルで、心がひりひりする。そんな描写が全体の3/4くらい占めているので、とにかくつらい読書時間ではあったけど、退屈ではない。ラストで救われる気持ちがした。

人を裏切って傷つけて失った信頼はそうそう簡単には戻らないことまで含め、リアルな小説だった。時々思い返すに違いない。赦すことの重要さを知る。

熱帯雨林の彼方へ(Through the Arc of the Rain Forest)

熱帯雨林の彼方へ (ライターズX)
Karen Tei Yamashita
4560045682

「ヴォネガットファンなら好きじゃないかな」と聞いては黙っておれず、探してみたけど絶版で、古本も6,000円とかするのでギブアップして、横浜市の図書館で借りた一冊。

ほんとにすごくすごく楽しくて、ペーソスにあふれてて、ほろっと来て、はちゃめちゃな小説だった。小さな一つの出来事が雪だるま式にふくれあがって思いがけない方向に暴走する展開も楽しい。ベースにあるのは環境破壊への警鐘だったりするけど、とにかく粋な小説だ。登場人物もちょっと......いや、かなり変。行動もちょっとずれてるけど、ひたむきで愛すべき人間達が織りなすドタバタ劇、そしてほろ苦いラスト。リベルテ、エガリテ、フラタニテ。これホントに復刊してください!!

いつか永久保存したいと思った。別れを惜しみつつ、図書館に返した。

2009年11月28日

あなたのための物語

あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
4152090626

これはすごいと思った。ページを繰る手が止まらない。文章も巧み、会話も洒脱、設定も本当に近未来はこうなるんじゃないかと疑う余地がないように感じた。

死がモチーフに選ばれたこの小説は、ジャンルは違うけれど先日読んだアイラ・モーリーの「日曜日の空は」を思い起こされる。あの本で耐えた重苦しさを、今度は当事者の側から疑似体験するような本だった。カバーの白さにはこんな意味があったのかと装丁をしみじみ眺めた。切ないけど、ラストには救いを感じた。よかった......。

冒頭の壮絶な死の描写。すさまじいとはこのことだろう。

曲がれ!スプーン

曲がれ!スプーン
4152090774

「あなたのための物語」のあとにコレをチョイスしてしまった。同じ判型で、同じように白いカバーなのに、この落差! いや、ほっとします。すばらしい。読書とは娯楽だ。電車で読んで声を出してはははっと笑ってしまったこと何度か。危険だ。

「曲がれ!スプーン」と「サマータイムマシン・ブルース」の後に続く「犬も歩けば」、これがよい。しみじみする。ほっこり系SFと呼ぼうかと。

2009年12月26日

フロム・ヘル(From Hell)

4622074915 4622074923

アラン・ムーア 作 / エディ・キャンベル 画。近所の書店で見あたらなかったのでネットでオーダーしたのだが、実は到着するまでこれがコミックで、しかもこんなに大判の本とは知らなくてビックリした。いつものみすず書房のかっちりした本が届くのかな、挿し絵が入っているのかな、くらいに思っていたのだ。わたし自身、アメコミを読む習慣が全くないので、これ最後まで読めるんだろうか……とかなり心配したのだが、杞憂だった。これは正解、すっごい本だ。コミックならではの表現であふれていた。

リアルなキャラクター描写はもっともなことで、収集できる限りの史実からストーリーを起こしているのだ。しかも、登場人物たちは皆、どこか憎めない。さらに、だんだんと慣れて笑いどころもわかってくるようになり、もうこの世界にどっぷりとはまってしまったことがわかる。やはり白眉なのは下巻の第10章以降に尽きると思うが、そこに至るまでのたくさんの伏線に、読み終えたあとも上巻をめくってしまうことになると思う。上巻の第4章を切り抜ければ大丈夫!

なお、余談であるが、「フロム・ヘル」から発見したアーサー・ラッカムとの共通項についてBlog( このエントリーこのエントリー )に書いた。確認したら、たいしたことなくてがっかりだったのだが、おそらくこういう楽しみ方が出来るのも本書の魅力であろうと思うので、紹介する。まぁ笑ってやってください。

2009年12月31日

NOVA 1

NOVA 1---書き下ろし日本SFコレクション)
大森 望 : 編
4309409946

今一番イキのいいSF作家を知るならこの本だろう。その一方で、SFという裾野の広いジャンルにあっては、 どうしても読者にとって受け付けない作風もあるのは悩ましいところ。個人的な問題で、スペースオペラと戦隊モノ(と、ついでにヒロイックファンタジー)が苦手なので(この3つが苦手でよくSFファンを名乗れるなぁワタシ……)収録作の1/3が受け付けませんでした。あと、スプラッタ系も苦手で……。と、1冊のアンソロジーでここまでヴァラエティに富んだ本も珍しいのではないかと思うが、現状のSF界はここまで豊かである、ということだろうと思う。2冊目以降、この混沌ぶり(と言っていいのかな。わたしにはそう取れたので)がどういった編集方針を辿ってゆくのか、注目したい。期待しています。

「エンゼルフレン チ」を読んだとき、ああこれはカフェで(モチロンできればミスドで)読んだらステキだろうなと思ったが、「隣人」にさしかかったら本を閉じてカフェを出た 方がいいと思った。

2009年、読んでよかった本

翻訳物があまり読めなかったなぁ~。それが残念なところ。久生十蘭全集は年に一冊のペースで消化中!?

サイのクララの大旅行―幻獣、18世紀ヨーロッパを行く
Glynis Ridley
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ノンフィクションなのだが、資料がほとんど残されていない中、丹念に調査して描き出された18世紀の見せ物興行の記録。まるで夢のような世界がそこには展開されている。全ての人におススメしたい傑作。ラストでほろっとしてしまった。ページ隅っこのクララの小さな挿絵がまたすばらしい。


熱帯雨林の彼方へ (ライターズX)
Karen Tei Yamashita
4560045682

今年出た本ではないが、ヴォネガット好きならオススメ、ということで図書館で借りて読んだのだが、コレ傑作ですよ。ヴォネガット以来だと思った。復刊して欲しい。登場人物がみんないい加減で自分勝手で、でも憎めなくて。


ポルトガルの四月 (ハヤカワ・ミステリワールド)
浅暮 三文
4152090049

いやもう、すばらしかった! ユーモア、世界観、文体、どれをとっても大変美味しかった。磯良一氏の装丁画もすばらしくて、本丸ごと完成度が高いと思った。浅暮氏の本はもっと積極的に出版していただきたい。

2010年1月31日

黒い時計の旅(Tours of the Black Clock)

黒い時計の旅 (白水uブックス)
Steve Erickson
4560071500

スティーヴ・エリクソンならコレ、と勧められたので早速読んでみた。歴史改変もので、ヒトラーが死んでいなかったらどうか、という程度の事前情報だけで読んでみたが、初めて読むような手法の小説だった。物語と物語が交錯している。この小説では人称が変化する。「わたし」(もしくは俺)と称するのは一人だけだ。物語は鮮やかなフェードアウトとインを繰り返し、エピソードがくるくると入れ替わる。そしてぐるっとひとまたぎして最初に戻っていく。すごい物語でまさに幻惑された……!

2010年2月28日

夜想曲集(Nocturnes)

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語
カズオ・イシグロ 土屋政雄:訳
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ちょっと昔、12インチシングルという規格があって、これはLPレコードと同じサイズの盤なのに3~4曲しか入っていない、ミニアルバムのようなモノ。シ ングル盤と同じ45回転で再生するため音がいい。この短編集は、そんな12インチシングルを思い起こさせる。5編に貫かれる甘く切ない大人の恋愛、音楽へ の限りない愛情、人生への賛歌。丁寧に編まれた、すばらしい作品集。
 

喋る馬

喋る馬(柴田元幸翻訳叢書)
バーナード・マラマッド
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しくしく泣く大人、惨めで貧しい。なのに穏やかな物語。何度か読み返したいような、じんわり滋味に満ちた一冊。ちょっと奇想も入ってて好きです。
 

通訳ダニエル・シュタイン

通訳ダニエル・シュタイン
リュドミラ・ウリツカヤ 前田 和泉:訳

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通訳ダニエル・シュタイン(下) (新潮クレスト・ブックス)

上巻の感想:八百万の神がいる日本では考えられない異国の宗教観。きめ細かな手紙のやりとりから、次第にそれらが実感として伝わってくる。厳しさと優しさがじわりと来る。下巻も楽しみです。

下巻の感想:ゆっくりゆっくり読み終えた。読んでいる間、泉のほとりのエリヤ教会にいつでも遊びに行けるような気持ちになった。第5章の重苦しさと、ラストに向けての 作者による手紙、そして最後に、静かに静かに涙した。まるで幻のような、おとぎ話のような……。そしてホントにそんな人がいたという希望に、打たれる。

 

余談:特筆すべきは、浅倉先生訃報の直後に「通訳ダニエル・シュタイン」を読み終えたこと。これが本当に救いでした。泣きました。神様に祈る方法がわからないという人に対し、ダニエルが大切な人みんなを手のひらにのせて、神様のほうに持ち上げる様子を
イメージするといいんだよ、って……。

そのあとしばらくはヴォネガットしか読みたくなくて、拾い読みや再読ばかりしていました。そんな中、改めて「追憶のハルマゲドン」はホントにいい短編だなぁと思いました。あっという間にあの世界観に飛び込める。音楽のようにリズムに乗れる。コトバの運びがすこぶる安心。これまであたりまえのように読んできたけど、こういう体験って、すごいことなんじゃないかなって思っています。

 


 

2010年3月 1日

ブルー

ブルー
久美沙織
4652079648

誰もが避けられない「死」を真っ向から取り扱った作品で、すりむけた傷のようにひりひりする。しかし悲壮感を感じないのは、その語り口の軽快さ故であろう か。普遍的なテーマをまさに今のコトバで切り取ったような印象。決して5年10年経っても古びない内容ではあると思うが、文章表現そのものが古びてしまう 気がして少し残念に思った。
 

高慢と偏見とゾンビ(Pride and Prejudice and Zombies)

高慢と偏見とゾンビ
ジェイン・オースティン、セス・グレアム=スミス 安原 和見:訳
4576100076

笑いながら読みながらも、エリザベスの恋の展開に手に汗握ってしまいました。凶暴だなぁ。最後の「読書の手引き」でまた爆笑。
 

2010年4月13日

星町の物語

星町の物語
太田 忠司
4652079699

一篇一篇を大切に読みたい。不条理な感じがすごくいい。じわじわくる。繰り返し読みたい、まさに珠玉の本。

2010年7月19日

キャッチ=22 (Catch-22)

キャッチ=22 上 (ハヤカワ文庫 NV 133)
ジョーゼフ・ヘラー 飛田 茂雄
4150401330

位相がどこかずれている。展開がすべて変。

キャッチ=22 下 (ハヤカワ文庫 NV 134)
ジョーゼフ・ヘラー 飛田 茂雄
4150401349

不条理な小説だなと思いながら読んでいたが、下巻に入ると徐々にシビアな内容になっていく。ヨッサリアンもマイローも少佐も大佐も将軍も、皆それぞれ折り 合いを付けながら生きたという話なのかな。スノードンのトラウマ以降のヨッサリアンの回想は、痛々しく、暗く、重い。ローマの描写は「夜の果てへの旅」を 連想した。だからラストに救われた思いがした。うん、「飛べっ!」

2010年7月 8日

機械探偵クリク・ロボット(Krik-Robot, Detective-A-Moteur )

機械探偵クリク・ロボット
〔ハヤカワ・ミステリ1837〕

カミ 高野優
4150018375

いきなりシュール。ユーモアたっぷり。ちょっぴりブラック。早川書房はクリクロボットのグッズを売るべき。
 

2010年7月12日

1950年のバックトス

1950年のバックトス (新潮文庫)
北村 薫
4101373329

何気ない日常を丁寧に綴られた文章に好感。そして、少し不可思議な出来事がスパイスのように効いている。小箱に詰められた上質なチョコレートのような作品集。

2010年7月26日

近代大阪の出版

近代大阪の出版
吉川 登 羽生 紀子 平野 翠 青木 育志 石田 あゆう 旭堂 南陵 小野 高裕 大谷 晃一 増田 のぞみ
4422201522

プラトン社の興亡は他で読んだ内容とは若干異なっていて非常におもしろかった。内部事情に一歩踏み込んだ取材という感じ。そして創元社。東京創元社の母体 ということを初めて知ったが、これまた大変におもしろい。丁寧な装丁や造本で東京の文芸書に負けない本を、との心意気が心地よい。講談社のキングに対抗し て、価格競争の波にのまれて自らの首を絞めたプラトン社。このエピソードの後のパートなだけに、創元社の出版社としての有り様や誠実さは鮮やかに映っ た。(創元社は今も元気に良書を作り続けています)
 

2010年8月14日

シャーロック・ホームズ最後の解決 (The Final Solution)

シャーロック・ホームズ最後の解決 (新潮文庫)
マイケル シェイボン Michael Chabon
410203613X

シェイボンの世界観が随所に行き渡った、嬉しい作品だった。150ページ程の短い中に、丁寧に描かれた老養蜂家の描写といい、少年の孤独といい、堪能し た。ところで『読書メーター』の「読書したみんなのコメント」を拝読すると、シャーロキアンよりシェイボニストの方が多いような気がする(私もそうです)。

ところで翻訳タイトルでは「シャーロック・ホームズ」と銘打たれているが、原著のタイトルはおろか、本文中にもその老人の名を明らかにすることは避けてあった。そりゃホームズ以外の何者でもないのだけれど、それでもあえて名を伏した作者の意向は汲んでもよかったように思う。そこはちょっと残念。
 

2010年8月28日

天使

天使
須永 朝彦
4336052557

端正な言葉の運びと、ある意味様式化された美しく妖しい異形の者たちの描写が大変読んでいて心地よい。退廃的ではあるものの、読み手を排除する感じがなく、最後まで楽しめた。連作とおぼしき作品群の連なりが、易しいパズルを提示されているようでもあった。それにしても天使とは、かくも残酷で美しいものであったか。
 

2010年8月31日

不思議な少年44号 (No. 44, The Mysterious Stranger)

トウェイン完訳コレクション 不思議な少年44号 (角川文庫)
マーク・トウェイン 大久保 博
4042142095
 

蘊蓄が多く若干だれるところもあるが、鮮やかな展開が随所で起こり、目が離せなかった。これが100年前に書かれた物語であるとは信じがたい。100年前 にここまで神を否定することを言い切っちゃって大丈夫だったんだろうかトウェインじいちゃんは!? そして思った。この少年はトラルファマドールから来た のではないかと。トウェインがSFを書いていた(と言い切って差し支えない……よね?)事実に、実は大変驚いた。

2010年9月 9日

卵をめぐる祖父の戦争 (City of Thieves)

卵をめぐる祖父の戦争 ((ハヤカワ・ポケット・ミステリ1838))
デイヴィッド・ベニオフ 田口俊樹
4150018383

コーリャがいい! コーリャとレフのやり取りには何度も声を出して笑った。寝かせてやれよ~。それにしてもエピソードの一つ一つが目が回るような冒険に彩 られていて、最後まで飽きずに読めた。しかしその「彩り」はグロテスクで目を逸らしたくなるようなものばかりではあったが。クライマックスとそれ以降につ いては勇み足だったような気もする。もう少しページを割いて書いてもよかったような。ともあれ、ダーリン・スープだね。
 

2010年10月13日

烏有此譚

烏有此譚
円城 塔
4062159333

本文読んでから注釈読みました。おもしろかった~! SFの人は怖い。
 

ジェイクをさがして (Looking for Jake)

ジェイクをさがして (ハヤカワ文庫SF)
チャイナ ミエヴィル 鈴木康士
4150117624

面白かった! ダークで若干グロテスク。ミエヴィルには短編もどんどん書いてほしい。オチをあえてつけないらしいが、それが非常に効果的で余韻を味わえた。「家」や「道」への偏執的なまでのこだわり方は好き嫌いが分かれるかもしれないが。

そんな中で、「飢餓の終わり」は風刺の色が露骨に出てて他の作品に比べて異色な気がした。
 

2010年11月 3日

くらやみの速さはどれくらい(The Speed of Dark)

くらやみの速さはどれくらい
エリザベス・ムーン 小尾 芙佐
4150116938

読み終わって思う。わたしはルウが大好きだ。ラストはそれでよかったのかな……と思うけど、人生を選択する権利は誰にでもあるから。立場や状況や時代は違っても、『ノーマル』であっても、そうでなくても。それから、小尾さん! 名訳です。
 

2010年11月12日

華竜の宮

華竜の宮
上田 早夕里
4152091630

ここまで活字って言うのは壮大でスペクタクルな表現ができるモノなのかと、お口あーんぐりであった。プロローグからいきなりすごい。細かな点までよく練られたストーリーに、個性豊かなキャラクターたち。彼らの動向に目が離せないまま、怒濤の第6章以降はもうノンストップだった。

ラストは若干の謎が残った(キーパーソンであったあの人は、その後結局どう過ごしたのか or どうなったのか、などなど)が、作者の今後の作家活動の期待としておきたい。ブラボー!!

2010年11月13日

宇宙飛行士オモン・ラー (Omoh Pa)

宇宙飛行士オモン・ラー (群像社ライブラリー)
ヴィクトル ペレーヴィン 尾山 慎二
4903619230

いろんな意味でルナティックな作品であった。へラーが描いた狂気の戦争小説「キャッチ=22」の手触りを思い出した。ブラックユーモアSFと括ってしまうには、あまりにも恐ろしい。特にミチョークの独白のシーンときたら……。今後はピンク・フロイドを聴く度に、あの飛行士のことを思い出すのだろう。

ソ連がその頃抱えていた問題点や、社会情勢にまで配慮した解説が記されている、訳者あとがきの秀逸さにも触れておきたい。この短い、ちょっと人を食ったようなへんてこなSF小説との出会いは、わたしにとって今年最大の収穫であった。

2010年11月17日

女ぎらい ニッポンのミソジニー

女ぎらい――ニッポンのミソジニー
上野 千鶴子
431401069X

わたしは女である。「女の子なんだから」と、物心ついた頃からそのジェンダーを背負いつつ、今まで、そしてこの先も毎日を過ごしている。女性蔑視の激しい業種ではないし、そんなに気になることはないと、わたしはずっと主張してきた。しかしながら、実は見て見ぬふりをしてきたのではなかろうか……。

深いところで気がついていながら、折り合いをつけて巧くやり過ごしてきた自分自身に改めて気がつかされた。目から鱗の一冊であった。「わたしは他の女とは違う」という鎧のなんと滑稽なことか!

2010年11月19日

どろんころんど(The Curious Journey of Man-nen1)

どろんころんど (ボクラノSFシリーズ)
北野勇作 鈴木志保
4834025772

どこか切なくて、まっすぐなキャラクターたちに心をぎゅっと掴まれる。アリスが回想するゴトーさんの登場シーンはちょっと涙が出た。YAとは思えない容赦のなさに拍手を送りたい。

それにしてもあの英語のタイトルは、だからそうなのか、とわたしは推論した。

2010年11月23日

異星人の郷 (Eifelheim)

異星人の郷
マイクル・フリン 嶋田 洋一
4488699014

異星人の郷 下 (創元SF文庫)

上下巻あるので、読み応え十分。中世ヨーロッパに不時着した異星人との交流の物語である。何と言っても、丁寧に描かれた14世紀のドイツの描写がすばらしい。また、折々に差し挟まれる現代パートが良い具合に物語を引き締めてくれる。発端は現代パート。「アイフェルハイム」というドイツの小さな村が、ある時代を境に突如うち捨てられてしまったのは何が原因だったのか……。この謎を探るところから、物語が始まる。

キリスト教が生活の規範となっている14世紀ヨーロッパの常識と、クレンク人の価値観。21世紀の現代人にとって、どちらも異邦人のように感じた。専門用語が飛び交う現代パートが難解であったが、ラストが実に人間味に溢れていてよかった。そして、14世紀パートを大きく支える主人公・デイートリヒの心の動きは、読み手にとっても大きな慰めになっていたと思う。 中世ヨーロッパとは、想像以上に理性的な時代であったことにも驚いた。

それにしてもペスト怖いよぅ。

2010年11月26日

時の地図(El mapa del tiempo)

時の地図
フェリクス J.パルマ 宮崎 真紀
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時の地図 下 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-2)

もうもうH.G.ウエルズリスペクト! 作者はウエルズが大好きでしょうがないんだろうなぁと思った。上下巻で3部構成、特に1部と2部は恋と冒険に、3部はサスペンスに満ちている。そして作者に翻弄されながらタイムパラドックスを堪能できた。一緒に読むなら「タイム・マシン」と 「フロム・ヘル」だなぁ。

第1部と2部で展開されるインチキ臭い企みに内心うーんと思いながら、まぁそれはそれでいいよね~と思わせておいて、第3部では脅威のどんでんがえしが待っている。読み手の予想を裏切り期待に応えるというか。 ただ、第3部が駆け足なので、エピソードの読み落としが仇になり、理解できない箇所があり難渋した。(読み直して解決しましたが)。

ところでウエルズ周りのこの感じ、何に似てるんだろうと思ったが、はたと気がついた。ヴォネガット「ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを」で、エリオット・ローズウォーターがSF作家を激励した演説だと思い至った。

2013年1月 1日

2012年の読書記録

実は昨年は読んだ本の記録をほぼ忘れていたため、12月に入ってから必死になって読書メーターにつけました。これはよくありません。ダメです。今年はちゃんと付けていこうと思います。抜けがあるような気もしますが、多分こんなかんじです。去年は『現代作家ガイド6 カート・ヴォネガット』の執筆に8月いっぱい忙殺されていたので、資料の読み込みがメインで読書ができなかったのです。今年は読むぞー!

2012年の読書メーター
読んだ本の数:28冊
読んだページ数:11101ページ
ナイス:74ナイス
感想・レビュー:26件
月間平均冊数:2.3冊
月間平均ページ:925ページ

パラダイス・モーテル (創元ライブラリ)パラダイス・モーテル (創元ライブラリ)感想
騙りの物語。最後まで見抜けなかった。見抜けなくてもいいとおもった。その過程がどこまでも残酷で、美しくて、グロテスクだったから。
読了日:2月20日 著者:エリック・マコーマック
密室の如き籠るもの (講談社ノベルス)密室の如き籠るもの (講談社ノベルス)
読了日:2月20日 著者:三津田 信三
絵のある自伝絵のある自伝感想
挿絵がオールカラーという豪華な一冊。子供時代はどんどん後ろへ追いやられ、過去は遠い思い出となる。その瞬間は言葉とスケッチで描きとめられて、一冊の本となって結実している。いたずらごころも満載。ずっとお元気でいてください。
読了日:3月20日 著者:安野 光雅
幽女の如き怨むもの (ミステリー・リーグ)幽女の如き怨むもの (ミステリー・リーグ)感想
いつもの刀城言耶ものとは趣向が違って、すごく挑戦的な試みをしていると思った。時代を経て移り変わっていく遊女の描写は凄みを感じた。あとからじわじわくるような物語。
読了日:7月31日 著者:三津田 信三
かめくん (河出文庫)かめくん (河出文庫)感想
二度目のかめくん。やっぱり切ない気持ちになる。大好きな本。おかえり、かめくん。
読了日:8月20日 著者:北野 勇作
都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)感想
今年一番の収穫。ハードボイルドなテイストがたまらない。都市のありようの不思議さに、どっぷり浸りたくなる。登場人物が皆魅力的。無骨で、クールで、ホットで。再読したくなる。
読了日:8月30日 著者:チャイナ・ミエヴィル
物語のルミナリエ: 異形コレクション (光文社文庫)物語のルミナリエ: 異形コレクション (光文社文庫)感想
読み応えのあるショートショート集だった。密度がすごい。特に被災した作家さんの作品は、どれも凄みがあった。
読了日:9月1日 著者:
Delivery (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)Delivery (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)感想
希望がない世界でも、生きていくんだな。終わりが始まったとしても、終わりの物語が始まるということなのかな。結構体力を奪われました。
読了日:9月10日 著者:八杉将司
Type:STEELY タイプ・スティーリィ (上) (幻狼ファンタジアノベルス)Type:STEELY タイプ・スティーリィ (上) (幻狼ファンタジアノベルス)
読了日:9月15日 著者:片理 誠
心のナイフ 上 (混沌の叫び1) (混沌の叫び 1)心のナイフ 上 (混沌の叫び1) (混沌の叫び 1)感想
つ、つかれた。。。
読了日:9月15日 著者:パトリック・ネス
たんぽぽのお酒 (ベスト版文学のおくりもの)たんぽぽのお酒 (ベスト版文学のおくりもの)感想
夏が終わる季節に。「永遠に生きよ!」と子供時代にカーニバルの魔術師に言われたブラッドベリの価値観がここにある。生と死を真正面から受け止めるみずみずしい感性は、大人になった今こそ心に沁みる。
読了日:9月15日 著者:レイ ブラッドベリ
Type:STEELY (下) (幻狼ファンタジアノベルス)Type:STEELY (下) (幻狼ファンタジアノベルス)感想
すごく面白かった! ディストピア疲れでぐったりしそうだったけど、ホントにあのラストには救われた。読後感が良かった。
読了日:9月16日 著者:片理 誠
心のナイフ 下 (混沌の叫び1) (混沌の叫び 1)心のナイフ 下 (混沌の叫び1) (混沌の叫び 1)感想
つ。つかれた。。。マンチーがあんなことに!!! 結局救いがない気がする。というか、ええ、そこで終わりなのかい!?というところで終わった。続編が気になるけど、すごく体力気力が要ると思った。
読了日:9月16日 著者:パトリック・ネス
ついてくるもの (講談社ノベルス)ついてくるもの (講談社ノベルス)感想
三津田さんは長篇が私は好きなのだけど、この『ついてくるもの』は過去のい短篇集の中ではダントツだと思った。とくに表題作、怖い。素晴らしい!
読了日:9月20日 著者:三津田 信三
さよなら僕の夏さよなら僕の夏感想
『たんぽぽのお酒』の世界観を踏襲しながら、子供から大人へなっていくほんの僅かな瞬間を捉えた傑作。やはり生と死は、ブラッドベリにとって永遠のテーマだったのかなと思う。さよなら、ありがとう、ブラッドベリ。
読了日:9月25日 著者:レイ・ブラッドベリ
10月はたそがれの国 (創元SF文庫)10月はたそがれの国 (創元SF文庫)感想
10月の季語とまで言われている(かどうかは不明)。わたしがもっている版はムニャイニによる美しい装画が素敵な古い創元文庫。今年、ブラッドベリ逝去を思い、読み返した。「骨」は何度読んでも怖い。淡々と密やかに語りかけるような文体は、去りゆく秋にしっくりとマッチする。
読了日:10月20日 著者:レイ・ブラッドベリ
リヴァイアサン クジラと蒸気機関 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)リヴァイアサン クジラと蒸気機関 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)感想
おもしろかった! 挿絵がこれまたいい味を出している。ダーウィニストと機械文明のそれぞれの世界で描かれる少年と少女が徐々に邂逅してゆく描写がステキだ。映像で見てみたい。
読了日:10月30日 著者:スコット・ウエスターフェルド
ブラッドベリ、自作を語るブラッドベリ、自作を語る感想
ブラッドベリが大好きだ。若いころのインタビューと比べて読むと、彼自身深みを増していることがわかる。言いたいことをズバッといってのける小気味よさも痛快。改めて、合掌。
読了日:11月1日 著者:レイ・ブラッドベリ,サム・ウェラー
カラマーゾフの妹カラマーゾフの妹感想
いやもう、びっくりした。ものすごーーーく面白かった。『兄弟』が未読だったけど、十分面白かった。けれど、細部がやはり気になったので『兄弟』を読んで再び読了。もっと楽しめた。「カラマーゾフ的」を高野流に消化するとこういう形になるのか。登場人物のネーミングも素晴らしかった。
読了日:11月15日 著者:高野 史緒
ブラックアウト (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)ブラックアウト (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)感想
うーん。ちょっと風呂敷広げすぎな気がする。しかし厚いね~。
読了日:11月19日 著者:コニー・ウィリス
カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)感想
『カラマーゾフの妹』が面白かったので、こっちに着手。序文で爆笑したのは『妹』効果。
読了日:11月25日 著者:ドストエフスキー
カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)感想
イワンの『大審問官』とゾシマ長老。ここは気合で読み切る。例えるなら『ドグラ・マグラ』のアホダラ教に当たる部分だと思った。神を信じるもの、神を信じない者の2方向からの視点。スカラカチャカポコ。
読了日:11月26日 著者:ドストエフスキー
カラマーゾフの兄弟3 (光文社古典新訳文庫)カラマーゾフの兄弟3 (光文社古典新訳文庫)感想
満を持してミーチャ登場。時系列で事を起こしていくミーチャ。ああーバカだなぁと内心ツッコミを入れつつも、ミーチャにハラハラしっぱなしだ!!
読了日:11月27日 著者:ドストエフスキー
カラマーゾフの兄弟 4 (光文社古典新訳文庫)カラマーゾフの兄弟 4 (光文社古典新訳文庫)感想
子どもたちの話に、イワンが話したあのエピソードが。そういうデジャヴのような展開が不思議な印象。裁判はああっ、なんとなんと、とおもうどんでん返しが続く。厚いのに手放せなかった。
読了日:11月29日 著者:ドストエフスキー
カラマーゾフの兄弟 5 エピローグ別巻 (5) (光文社古典新訳文庫)カラマーゾフの兄弟 5 エピローグ別巻 (5) (光文社古典新訳文庫)感想
エピローグはあっけないけれど、そうか~と思った。解説では地図がすごくためになりました。あー面白かった。「第二の物語」が描かれなかったことは残念。
読了日:11月29日 著者:ドストエフスキー
日本アパッチ族 (ハルキ文庫)日本アパッチ族 (ハルキ文庫)感想
ラスト数ページにて、さらりと書かれていることが結構ヘビーでぎょっとした。迫害と蜂起を経て、淘汰と粛清の後、文化を生み出すほどに成熟するまで100年がかかる、と。うーむ。すごい物語だ。
読了日:12月18日 著者:小松 左京
クラゲの海に浮かぶ舟 (徳間デュアル文庫)クラゲの海に浮かぶ舟 (徳間デュアル文庫)感想
北野さんがTwitterで、高橋幸宏の「Xmas day in the next life」がネクストライフ社の元ネタ、と書いておられたので再読。ムーンライダーズやヴァージンVS、シュガーベイブらの歌詞やタイトルをもじった言葉遊びが光る。自己の記憶をたどらざるを得なくなる主人公が、その先に見つけるものは虚だったりする。「来世」を北野流に調理すると、こんな切ない物語になる。
読了日:12月26日 著者:北野 勇作
屍者の帝国屍者の帝国感想
この設定は、ファンタジーにもドタバタ系にもバカSFにも転じる可能性があったと思うのに、それを抑えこんだ語り口は見事だった。そう、見事なんだけど、新キャラが出るたび、いちいち笑ってしまった。エンターテインメントです。
読了日:12月30日 著者:伊藤 計劃,円城 塔

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