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横溝正史 アーカイブ

2007年4月13日

蝶々殺人事件

先日のヴォネガットの訃報で、予定が逆転しましたが、
横溝正史の「蝶々殺人事件」です。
この作品は、クロフツの「樽」の発想をモチーフに描かれた作品として
知られていますし、横溝もそうだと言っています。

「樽」と「蝶々」の共通点は次の通りかと思います。

その1:死体を何かに詰めて送る。クロフツは樽、横溝はコントラバスケース。
その2:死体には、クロフツはおがくずがいっしょに詰められ、横溝は薔薇の花びらが。
その3:死体の胸元には、クロフツはメモが、横溝は100円札が。
その4:殺人が行われ死体が詰められた場所と時間を追っている。
その5:主人公(あるいは語り部)が入れ替わる。

※その5はちょっと苦しいかも…?

「蝶々殺人事件」は設定や人物の背景などがまったく「樽」とは異なるので
別物の作品としてモチロンながら楽しめます。
が、双方を読むと、意図的に横溝が取り入れた共通項をあちこちで発見できて
結構楽しいものです。

関係ありませんが、冒頭で由利先生が甘薯作りをしていたのは、
小栗虫太郎へのオマージュだったと個人的に思っています。
小栗は疎開先で生きるために甘薯をつくっており、横溝に
「砂糖が取れたら君のところにも送ってあげる」という手紙を書いていました。
そして、「蝶々殺人事件」は、もともと小栗が連載していた雑誌「ロック」に
小栗の死後、その穴を埋めるピンチヒッターとして
書くことになった経緯があるからです。
かつて、大喀血で執筆を断念しなくてはならなかった穴を埋めてくれたのが
小栗虫太郎であり、彼がいつかこまったときは自分がそのピンチヒッターを
務めると約束したという逸話も残っています。

…と、ちょっと横道にそれました。
現在、「蝶々殺人事件」は、角川文庫ではなく
「横溝正史自選集」という豪華なハードカバーの本の
第1巻に「本陣殺人事件」と一緒に収録されています。
この本には、「ロック」連載時の随筆なども収録されているので
まとめて読むにはとてもいいと思います。
が、これらの文章は、講談社オンデマンドブックスの「探偵小説五十年」や
角川書店「横溝正史自伝的随筆集」でも読むことができるので、
古本で文庫の「蝶々」を求めておいて、これらの本を読む方法もあると思います。

横溝正史自選集〈1〉本陣殺人事件/蝶々殺人事件
横溝 正史
488293308X

横溝正史自伝的随筆集
横溝 正史
404883746X

2007年5月28日

本陣殺人事件

終戦を告げる玉音放送を聴きながら、
「さあ、これからだ」と意気込んだ逸話があまりにも有名な、
横溝正史戦後第一作です。

戦時中、かの作家がいかに抑制され続けてきたかが
わかる描写が、随所に織り込まれています。
探偵小説に対する愛情が、そこかしこにほとばしっている、
横溝正史の傑作のひとつ。

こういう作品は、一生に一度しか書く機会ってないんじゃないかな。
社会情勢や、作家の年齢、好奇心の高まり、成熟の手前。
みずみずしさに溢れています。
「書く喜び」に満ちていると思いました。


本陣殺人事件
横溝 正史
本陣殺人事件
角川文庫版です。
おなじみの中島河太郎さんの解説が、なぜか新装版になってから
収録されなくなったので(権利の問題?ぜひ再録して欲しいものです…!)
この作品が描かれた背景などが理解しづらいかな。
純粋に作品だけを楽しむ向きの方には、逆にいいのかもしれません。
(わたしは解説好きなので、物足りないっす…)

横溝正史自選集〈1〉本陣殺人事件/蝶々殺人事件
横溝 正史
488293308X

こちらは出版芸術社版。豪華ハードカバー!!
作品が発表された当時の正史の随筆などが読めるので理解が深まります。
同時期に書かれていた「蝶々殺人事件」と一緒に収録されています。
ただ、「探偵小説五十年」とか持ってる人には重複してるからなぁ…
うーん。余裕があるときに揃えたい。

余談ですが、「手毬歌」だったかどの本だったか失念したけど、
ご子息インタビューが載ってます。

2008年10月 4日

横溝正史読本

横溝正史読本 (角川文庫 (よ5-200))
小林 信彦
4041382165

嬉しいねぇー。小林信彦による横溝正史ロングインタビューがようやく読めた! 長らく絶版だったし、古本は高額で取引されてたから、このたびの復刊は本当に嬉しい。一気に読んでしまった。

新青年の頃、「本陣」「蝶々」「獄門」の三冊、そしてクリスティーを巡る話題が大きな柱。乱歩、雨村、水谷準は勿論のこと、渥美清や果てはSFまで。博覧強記同士の話題はあっちこっちに飛びまくり、「これからは半村良をおおいに読むとしましょう」なんて横溝先生、やっぱりスーパーおじいちゃんだ。特に印象的だったのが「対談を前に読んでおかなくては」と生前の夢野久作から寄贈されていた「ドグラ・マグラ」を読んだ話。あまりにも本の内容が強烈だったせいで、書棚の大きなガラスを割っちゃったくだりは興味深かった。夢野と横溝、この二人の作家には殆ど接点がないと思っていただけに、双方のファンとしては嬉しいことこの上なかった。これも丁寧に話し込んだからこそ引き出せたエピソードで、貴重なインタビューだと思う。

惜しむらくは、文庫版で削除されてしまった乱歩没年の日記だ。権利の問題か? どういう経緯で削除されたのかはわからないが、読みたかったなぁ。また、最初の出版からかなり年月が経っているので、注釈がそろそろ必要ではないかと思った。もともと、わたしは探偵小説好きなので、このあたりの話題には結構ついていけたけれど、戦前の探偵作家の名前等は大部分が現在では忘れ去られている状況だ。21世紀に復刊したなら、やはり解説がほしいところ。資料価値の高い本なだけに、そのあたり手を入れる必要はあるかもしれない。いや、もしかしたら「完全版」という形で後年出るかもしれないね。って勘ぐり過ぎかしら。

いろいろ言ったけど、とにかく楽しい一冊だった。戦前の探偵小説ファンは勿論のこと、戦後の推理小説誕生に興味のある人なら必携の一冊だろう。

2009年11月28日

本陣殺人事件

本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)
4041304083

私事であるが、今月アタマに倉敷・真備で開催されている「巡・金田一耕助の小径」ミステリーウォークラリーに参加してきた。この本はその予習のために旅の間読み返したモノ。読んでから参加して良かったとおもった。「三本指の男が最初に目撃された場所」とか、「登場人物の乗った乗り合い自動車が交通事故を起こした場所」といった具合にチェックポイントが指定されていたので、あやふやな記憶ではこれ楽しさ半減だったかも!と思った。

ウォークラリーはともかく、「本陣殺人事件」、非常に良くできた小説。いまから60年前に書かれたものとは思えない。瑞々しさがこの小説の持ち味なんだろうと改めて思った。ときどき思い返しては読みたくなるのが横溝正史。その魅力に触れる最適な一冊だと思った。名著。

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