ポンスン事件(The Ponson Case)
クロフツを読むのはこの本で3冊目です。
チョイスがよかったのか、それともこの作家の質が高いのかわかりませんが
今の所クロフツにハズレなし状態です。
これまで読んだ「クロイドン発12時30分」「樽」と比べても
もしかしたらイチバンよかった気がします。
初め、ボートからの転落死とされていたポンスン卿。
司法解剖の結果、ポンスン卿の肺には水が溜まっておらず
溺死ではないことが明白となり、殺人事件の疑いが生じました。
ポンスン卿の死因が他殺ではないかと目されてから、
殺人犯として容疑の掛かった二人に加え、さらに怪しい人物が増え、
読んでいて「えっ!?違うの!?」と驚く展開です。
殺人の動機を握ると考えられた、ポンスン卿の遺産相続や
社会的な地位といった要因も、事件を解く上で重要なキーになっています。
そして、ポンスン卿の生い立ちの事細かな描写が、
あとになってきちんと生きてくるあたりも、
うむむ、と唸らずにはいられません。
あっと驚いた結びは、ただの告白による謎解きではなく、
タナー警部が念入りに調査したことが重要な鍵になっていて、
いやもうすごいすごい!と心の中で、拍手喝采です。
登場人物にも無駄がありません。
「事実は小説よりも奇なり」を小説にしたような。
リアリティがあるので、意外性も素直に受け容れられました。
…ミステリはネタバレが命取りなので、これ以上は書けませんが、
結末がわかっても、「ああ! これがあのシーンの複線だったのか!」と
後から楽しめることは間違いなさそうです。
もう一回読んでみたいと思います。たいへん素晴らしかったです!!
余談ですが、クロフツの小説は、とても優雅です。
お茶や食事を堪能すること、季節の移り変わりを感じることを忘れない警部。
そして慇懃な取調べ。受け応える容疑者も、あくまで敬意と誠意を忘れません。
人は、どんなに忙しくとも、かくあるべきなのかもしれません。
ポンスン事件
F.W.クロフツ 井上 勇