首無の如き祟るもの
首無の如き祟るもの
三津田 信三
横溝正史を「最後の探偵小説作家」と呼ぶらしいが、一度絶滅してしまった探偵小説がまるでトキやコウノトリのように復活した...初めて読んだ三津田信三を、わたしはそんな風に感じた。設定、時代背景、猟奇的な犯罪、なまめかしさ、どれをとっても推理小説というより探偵小説と呼ぶにふさわしいテイストだった。すばらしい。
読者は、この禍々しい物語の犯人が誰で、どう犯罪が行われて、その動機は何かを、神経を研ぎ澄ませて、作家が綴るコトバ一つ一つをかみ締めながら読む。それでも、あのラストの大どんでん返しには驚かされるし、確かにフェアだよなぁ...と思いながらも、そこに気を止めず読み進めてしまったことを悔しく思った。再読の必要性に迫られる一作だ。1回目は単純に楽しむため、2回目は確認をするため......。ヤラレター! このどんでん返しは、想像つかなかった。トリックの複雑さはクロフツの「樽」を少し思わせ、覆い尽くす黒く不気味なムードは、やはり横溝正史の遺伝子だと思った。夢野久作っぽくはない。
ただ、大ラスの不気味さは、「ドグラ・マグラ」の『ブゥーーーーーーーン』に匹敵すると感じた。このラストが描きたいがために、作者はこの形式を取ったのだろうか。作家の筆を借りる形で、物語が進む方式はこれまでもあったが、これは......。
ひとつ気になったのは、主要人物のひとり・使用人の斧高の言動がとても6歳に感じなかったこと。これはもう読んでて気になって気になって仕方がなかった。それから、見取り図は入れてほしかった。建物の配置が複雑だったし、せっかくここまで探偵小説魂を引き継いでいるのだから、見取り図はほしかったなぁー。
戦後ミステリの好きな方なら、クスリと笑ってしまうようなトリヴィアがいっぱい詰め込まれている点も見逃せない。だって、主要登場人物の一人に江川蘭子ですよ! これを知ったら、もう読むしかないでしょう。