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三津田信三 アーカイブ

2008年1月20日

首無の如き祟るもの

首無の如き祟るもの
三津田 信三
4562040718

横溝正史を「最後の探偵小説作家」と呼ぶらしいが、一度絶滅してしまった探偵小説がまるでトキやコウノトリのように復活した...初めて読んだ三津田信三を、わたしはそんな風に感じた。設定、時代背景、猟奇的な犯罪、なまめかしさ、どれをとっても推理小説というより探偵小説と呼ぶにふさわしいテイストだった。すばらしい。

読者は、この禍々しい物語の犯人が誰で、どう犯罪が行われて、その動機は何かを、神経を研ぎ澄ませて、作家が綴るコトバ一つ一つをかみ締めながら読む。それでも、あのラストの大どんでん返しには驚かされるし、確かにフェアだよなぁ...と思いながらも、そこに気を止めず読み進めてしまったことを悔しく思った。再読の必要性に迫られる一作だ。1回目は単純に楽しむため、2回目は確認をするため......。ヤラレター! このどんでん返しは、想像つかなかった。トリックの複雑さはクロフツの「樽」を少し思わせ、覆い尽くす黒く不気味なムードは、やはり横溝正史の遺伝子だと思った。夢野久作っぽくはない。

ただ、大ラスの不気味さは、「ドグラ・マグラ」の『ブゥーーーーーーーン』に匹敵すると感じた。このラストが描きたいがために、作者はこの形式を取ったのだろうか。作家の筆を借りる形で、物語が進む方式はこれまでもあったが、これは......。

ひとつ気になったのは、主要人物のひとり・使用人の斧高の言動がとても6歳に感じなかったこと。これはもう読んでて気になって気になって仕方がなかった。それから、見取り図は入れてほしかった。建物の配置が複雑だったし、せっかくここまで探偵小説魂を引き継いでいるのだから、見取り図はほしかったなぁー。

戦後ミステリの好きな方なら、クスリと笑ってしまうようなトリヴィアがいっぱい詰め込まれている点も見逃せない。だって、主要登場人物の一人に江川蘭子ですよ! これを知ったら、もう読むしかないでしょう。

2008年7月 6日

山魔の如き嗤うもの

山魔の如き嗤うもの
三津田信三
456204151X

「やまんまのごときわらうもの」と読む。刀城言耶シリーズ第4弾で、私自身は前回の「首無の如き祟るもの」に引き続いて2冊目となる。寝る前にいつもの感じで読んでいたのだが、読み止めるタイミングが掴めずに困るほど、次の展開が面白かった。エンターテインメントとはこういう本のことを指すのかも。

全体を覆う禍々しさもよい。夜中に読むと、結構怖いよ。山中のロッジとか、それこそ郷里で読んだらきっともっと怖いだろうなぁ。ああ、都会でよかった。成人の儀式で山を越える云々という導入は、「首無」にシチュエーションが近いので「あれ?これ読んだっけ??」と一瞬思った。が、そんなことはともかく、ぐいぐい引き込まれる。特に、父と子のありようについて、言耶自身が抱いているジレンマにもスポットが当たって、より深みが出ていい感じだと思った。金田一耕助を思い起こさせるところがあるが、キャラクター設定に今後も深みを増し、より個性的になってゆくことだろう。期待したい。

それにしても、「首無」でチラと触れられていたエピソードの織り込み方が心憎い!

2008年8月 4日

忌館 ホラー作家の棲む家

忌館―ホラー作家の棲む家 (講談社文庫 み 58-1)
三津田 信三
406276105X

三津田信三のデビュー作「ホラー作家の棲む家」を改題し、改訂された「完全版」として文庫化されたもの。絶版状態だったので文庫化は嬉しく、書店で見つけ四の五の言わずに入手した。

まず、なんといっても「忌館」は怖い。暗闇への畏怖が、見てはならないものへのあくなき好奇が、全体を覆い隠している。本の中に本が登場する手腕は、夢野久作「ドグラ・マグラ」を髣髴とさせつつも、交互に差し込まれる小説の中の小説と、小説の中の現実は、次第に境界線が失われてゆき、読者は作家の目眩ましに遭う。

それゆえ、ラスト間際の「謎解き」は難解を極めている。殺人があって、探偵が登場し、居間に遺族がずらりと並べられて「犯人はあなたです」と指される的な「謎解き」ではない。じっくり腰を据えないと先述した「目眩まし」に翻弄されるからだ。本文後に追記された「跋文」そして「西日」まで完璧な構成になっているが、これらは決して解題ではなく、謎はより深くなる。そんな点も見逃せない。また、この小説は作者「三津田信三」の体験記として綴られているため、本文内には実際に活躍している作家や評論家の実名も出てくる。しかし、「そうではない作家」の名前もしれっと紛れ込んでいる。どこからどこまでが虚なのか実なのか。翻弄されることを楽しむのも、また一興。

それにしても三津田氏は、ほんとうに乱歩が好きなんだなぁと思った。乱歩が好んで記していた言葉「うつし世は夢 夜の夢こそ真」、これがこの小説のテーマなのではないだろうか。吸い込まれるような真っ暗な夜空や、暗闇の茂みが姿を消しつつある現代に、三津田信三が執拗なまでに表現した「闇」はどこまでもいとおしく、そして恐れおののくべき存在だと思った。

2009年4月12日

厭魅の如き憑くもの

厭魅(まじもの)の如き憑くもの (講談社文庫)
三津田 信三
4062763060

「刀城言耶」シリーズ第1長編。

読んでる間、ずーっとわくわくして、とっても面白く読めた。けれど、先に読んでしまった「首無」や「山魔」の怖さに魅了された後だったせいか、ちょっと物足らなかった。「名探偵、みんな集めてさてと言い」をパロディにしたラストの展開はとても可笑しかった。(や、笑うトコじゃないですが)

2009年6月26日

凶鳥の如き忌むもの

凶鳥の如き忌むもの (ミステリー・リーグ)
三津田 信三
4562042877

もともと講談社ノベルスから出ていたモノを上製本として出版。書き下ろし短編のおまけ付き。そして美しい装丁。原書房の上製版で刀城言耶シリーズは揃えたいなぁ。(あっ、それって出版社の思うツボ!?)

で、「凶鳥」。なかなか骨太な「密室モノ」だった。読んでいる間、横溝正史「本陣殺人事件」を連想していたが、「本陣」も裸足で逃げだすその謎解きにビックリ仰天した。この発想はなかった。「本陣」のときもそうだったが、舞台となった拝殿の造りを文章から脳内で組み立てるのが結構骨だった。が、しっかり読ませる。ラストの少し不思議なテイストも刀城言耶シリーズの良さだろう。

また、他のシリーズとひと味違うなと思ったのは、登場人物のかなり際だった個性だろうか。密室モノなので、人物も少なく、その分、人の描写が丁寧だったように思う。「首無」の次に気に入った。

特別書き下ろし短編「天魔の如き跳ぶもの」は、探偵小説雑誌に載るような雰囲気満載の短編でとても楽しく読めた。すっきり上手くまとまっている。阿武隈川、いいキャラだなぁ。

2009年11月28日

赫眼

赫眼 (光文社文庫)
4334746454

ホラー短編集。どれも怖くて良い。家にまつわる怖い話しが軸になっていて、これはぜひとも古い建物で読みたいと思った。中でも特に「よなかのでんわ」のラストがいい。一種の言葉責めのような恐怖表現こそが三津田信三の真骨頂だと思う。長編とは違ったおもしろさがある。ペダントリー一歩手前のマニアック表現も嫌みが無くてさわやかですらある。(小栗虫太郎のようなねちねちした感じではない)

2009年12月27日

水魑の如き沈むもの

水魑の如き沈むもの (ミステリー・リーグ)
三津田信三
4562045418

待ってました! 刀城言耶シリーズ最新刊。シリーズ中で最長ページ数らしいのだが、物語はこれまでで一番すっきりまとまってて、人間関係も複雑な中にくっきりと違いがあり、とても読みやすかった。ミステリなので、とにかく先を見てはいけない。ページをめくって何が起きるか、うっかりでも見てはいけないので、慎重にページをめくって大事に大事に読んだのだが、やはり後半戦にはいると、その先が気になって結局いつものように一気読みしてしまった。

期待通りというか予想通りというか、相変わらず推理があっちこっちに行く刀城言耶であったが、さらに転じたのにはびっくりした。作者は「キャラ クターには思い入れがない」と先日のトークショウで話しておられていたが、これまでのシリーズでも、もっとも登場人物たちに一層の深みが増していたように思う。賛否がどうやら分かれているらしい、あのたった見開きで納まってしまった静 かな幕引き、そして残された謎もわたしは大変好みだ。もう一度読み返したが、見事だと思う。なお、未読の方は既刊「厭魅の如き憑くもの」を併せて読むといいです。こうしてこのシリーズは他の作品同士、リンクし合うのかもしれない。次回作も当然期待、上下巻でもいいです!!

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