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2007年3月 アーカイブ

2007年3月16日

このブログについて

わたしの趣味は読書です。
暇があれば本が読みたいし、制覇したい作家がたくさんいます。
恵比寿に住んでいたときは、電車での移動もほとんど時間がかからなくて
今ほどあまり本を読みませんでしたが、
横浜に引っ越して以来、電車の移動時間は専ら読書タイムと化しました。
打ち合わせや展覧会の当番で都内に出る機会は結構あり、
読書の機会が増えました。
そのおかげで、以前より早く本が読めるようになり、
軽い文庫なら往復で一冊は読めるようになりました。

読み終えた本が増えると、読んだ本のことが忘却のかなたへ
押しやられてしまい、それはそれで悲しいように思い始めました。
そこで、本の備忘録を、日記「うつつにぞ見る」に書いてはいましたが、
あまりにも趣味性が強く、日記のカラーにはそぐわない気がして、
読書記録は別物にすべきだなと思うようになりました。
これが当ブログを立ち上げたきっかけです。

また、現在販売されている本ばかりではなく、絶版になった本を
古本屋さんで収集することもよくあるので、
そういう本の写真や表紙スキャン画像も載せ、出典情報も記載して
資料的な価値があるかどうかはわかりませんが、
そんな記録も残したいなと思いました。

趣味が偏っているので、すべての方に楽しんでいただけるとは思いませんし、
偏っているとは言っても、そんなに詳しい方ではないので
マニアックな欲求を満たすような深い内容にはならないとは思います。
ということで、最初に謝っておきますです。(って誰に??)

タイトルの「書かでもの記」は、横溝正史が随筆のタイトルにしていたもので、
「別に書かなくてもいいような、たわいないもの」という意図で
そんなタイトルにされていました。
精神論的に、このブログも同じ気持ちなので、タイトルを拝借させていただきました。
ちなみに日記タイトルの「うつつにぞ見る」は、百間先生の文章から
拝借したものだったりします。リスペクトなのです。

ノラや

ノラや

はじめて読んだ百間先生です。
百間先生の家にやってきてエサを貰っていた野良猫のノラが
ある日を境に急に姿を消してしまいます。
こんなに大切に思っていたとは思わなかったと
驚き、そして失踪したノラを思い狼狽する百間先生の気持ち、
もうもう身が切られるようです。

そして、ノラからの伝言を伝えにきたような「クルツ」という猫との出会い。
クルツは最期まで百間先生と共にありましたが、
最期を迎えるときの描写は、これまた涙なくしては語れません。

これは、壮大(?)なペットロス小説といえると思います。
猫の最期を看取ったことがある人には涙が出てたまらないと思います。
が、そこに悲壮感はなく、読後感がほわっとあったかいのが不思議です。
百間先生の狼狽振りをコミカルにとる人も少なくないのですが、
そのせいもあるのかもしれません。

わたしが読んだのは、中公文庫版でした。
この版は、旧仮名遣いなので、百間先生の文章が
とてもいい具合に読めますし、また表紙の絵は
先生が「クルやおまえか」を出版する際に、こういう構図で描いて欲しい、
と装丁画家にリクエストをしたもので、クルツと百間先生が縁側でたたずんで
お庭を眺めている様子なのだそうです。
おじいちゃんになった百間先生の佇まいが、すごく表現されています。
絵は斎藤清によるものです。

現在は、この中公版のほかにちくま文庫版がありますが、
現代かなとなっています。が、収録作品が多く、
最後の作品となった「猫が口を利いた」もあるので
どっちがいいかはなんともいえません。

遺作の収録された「日没閉門」は、古本で入手しましたので
「猫が口を利いた」についてはそのときにご紹介したいと思います。

ノラや
内田 百間
4122027845

ノラや―内田百間集成〈9〉 ちくま文庫
内田 百間
4480037691

※百間先生の「けん」の字は、ホントは門がまえに月です。
この文字が表示できない環境もあるので、戦前の表記「百間」に倣います。

2007年3月18日

ドグラ・マグラ

ドグラ・マグラ 書き出し

わたしがはじめて「ドグラ・マグラ」を読んだのは
高校3年生のときだたっと記憶しておりまして、
それは角川文庫版で、表紙が米倉斉加年によるものです。
妖艶です。ちょっぴりエッチです。そしてなにより怖いです!
ドグラ・マグラ (上) 

上下巻なのですが、チャカポコあほだら教がなかなか長く、
終わったと思ったら今度は無声映画の弁士風演出があったり、
昔々の中国の話しに飛んだり、取り止めがないような内容に
めくらましをくらった18歳のわたしは、一体その後どうしたでしょう。

…友だちにその本を貸しました。貸すような本なのでしょうか。

彼女はおそらく『あほだら教』あたりで挫折したと思いますが、
返すに返せず、そのタイミングを失ったのではないでしょうか。
要はその本は戻ってこなかったわけです。

次にであったのは、三一書房版の「夢野久作全集」でした。

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2007年3月23日

ポンスン事件(The Ponson Case)

クロフツを読むのはこの本で3冊目です。
チョイスがよかったのか、それともこの作家の質が高いのかわかりませんが
今の所クロフツにハズレなし状態です。
これまで読んだ「クロイドン発12時30分」「樽」と比べても
もしかしたらイチバンよかった気がします。

初め、ボートからの転落死とされていたポンスン卿。
司法解剖の結果、ポンスン卿の肺には水が溜まっておらず
溺死ではないことが明白となり、殺人事件の疑いが生じました。
ポンスン卿の死因が他殺ではないかと目されてから、
殺人犯として容疑の掛かった二人に加え、さらに怪しい人物が増え、
読んでいて「えっ!?違うの!?」と驚く展開です。

殺人の動機を握ると考えられた、ポンスン卿の遺産相続や
社会的な地位といった要因も、事件を解く上で重要なキーになっています。
そして、ポンスン卿の生い立ちの事細かな描写が、
あとになってきちんと生きてくるあたりも、
うむむ、と唸らずにはいられません。

あっと驚いた結びは、ただの告白による謎解きではなく、
タナー警部が念入りに調査したことが重要な鍵になっていて、
いやもうすごいすごい!と心の中で、拍手喝采です。

登場人物にも無駄がありません。
「事実は小説よりも奇なり」を小説にしたような。
リアリティがあるので、意外性も素直に受け容れられました。

…ミステリはネタバレが命取りなので、これ以上は書けませんが、
結末がわかっても、「ああ! これがあのシーンの複線だったのか!」と
後から楽しめることは間違いなさそうです。
もう一回読んでみたいと思います。たいへん素晴らしかったです!!

余談ですが、クロフツの小説は、とても優雅です。
お茶や食事を堪能すること、季節の移り変わりを感じることを忘れない警部。
そして慇懃な取調べ。受け応える容疑者も、あくまで敬意と誠意を忘れません。
人は、どんなに忙しくとも、かくあるべきなのかもしれません。


ポンスン事件
F.W.クロフツ 井上 勇
4488106021

2007年3月28日

冬の蝉

初めて読んだ杉本苑子さんです。時代小説です。

江戸の時代に使われたと思われる言葉や
風習や常識などが、ふんだんに織り込まれていますが
言葉使いはどちらかといえば平易で読みやすいです。
しかも、情感たっぷりの描写は見事としかいいようがなく、
2,3行読むうちにすんなりとその世界に入り込んでしまいます。

この短編集には、ときどきどうしようもなく理不尽な
終わりをする作品があります。
その代表的なのが「菜摘ます児(なつますこ)」でしょう。
花は病気で臥せっている父親を抱えながら、茶屋を営んでいる娘です。
ある日、お腹の調子を壊したお殿様が、花の営む茶屋に立ち寄り、厠を借ります。
気分のよくなった殿様は、この茶屋の名前を「お花茶屋」とお墨付きを与え、
しかもお礼に三両もの大金を花に与えます。
花には結婚の約束をしている人がおり、ああこれだけあれば結婚資金にできると
たいそう喜ぶのでした……。

……ここまでなら、めでたしめでたしで終わる話ですが、
杉本さんはその後の話をすすめることで、花の身の上に降ってわいた幸運が、
いかにして不運に転じてしまうかを鮮やかに描きます。

花がどうなってしまったのかは、ぜひ読んでみていただきたいです。

個人的には、この「菜摘ます児」の理不尽さと
表題作「冬の蝉」の心温まるラスト、そして
「ゆずり葉の井戸」の壮大なドラマに感動しました。

すっかり魅せられてしまった一冊です。


冬の蝉
杉本 苑子
冬の蝉

2007年3月30日

樽(The Cask)

クロフツのデビュー作にして最高傑作の呼び声の高い「樽」です。
入院中に手慰みに書いたのだそうです。

埠頭に荷揚げされた樽が破損してしまい、
その中からゾウリン硬貨と女性の死体が発見されました。
すぐさまロンドン警察に連絡が行き、バーンリー警部が駆けつけるも
その荷物は「荷受人」とされる男によって持ち去られた後でした…。

この長い物語は、一貫して
「死体はどこで樽に詰められて、どういうルートをたどって
フェリックスの家で中身を開けられることになったのか」を追っていますが、
樽の後を追いかける警部たちについていくのがやっとでした。
土地勘がないわたしには、パリとロンドンを行ったり来たりする
その足取りがちんぷんかんぷんで…。

ちんぷんかんぷんなのですが…この話は、とても面白いです。
500ページもある、相当長い小説ですが、3部構成になっているためか
それほど長いとは感じませんでした。

クロフツの作品はわたしはこれまで3冊読んだのですが、
いずれも、ラストがちょっと物足りない印象を受けます。
それまでの長い冒険の間に描かれた、警部や探偵たちの人間味が
もっとラストにも生かされていいのではないか…と正直思います。
物語の発端はどれもドラマチックなのですが…。

「樽」も、パリ警視総監のショヴェーがラストに登場するだけで、
あんなに身を粉にして働いたバーンリーやルファルジュが
出てこないのが寂しい限りです。

ラストの冒険は、なかなかスリリングで読み応えがあります。

二回読みましたが、面白かったです。非常に楽しめました。
名作と読み継がれるだけのことはあると思います。
わたしが読んだのは早川版ですが、創元推理版もあります。
創元版には英仏の地図が載ってたような記憶が…気のせいかな?
今度、書店で確かめてみよう。

カバーのオシャレ度は早川版がバツグンです。


F.W.クロフツ:作/加賀山 卓朗:訳
4150736049

早川版。翻訳はよかったと思います。
先日読んだ「ポンスン事件」と遜色ないと感じました。
地図が載っていれば申し分ないのですが…。


F.W.クロフツ:作/大久保 康雄:訳
4488106013

創元版。地図、載ってなかったかなぁ~??
カバーのデザインはもう少し何とかならないでしょうか…。

追記;
創元版には地図が載っていました。
樽の行方を追う上では、創元版に軍配が上がりそうです。
ガンバレ、早川!!

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