ルルとミミ

Mさんより、夢野久作「ルルとミミ」を送っていただいた。
1979年刊。古書流通で12,000円以上する、定価950円の絵本である(※)。

お話そのものは、大正15年に「戸田健 作画」として世に出たもので、
ちくま書房の「夢野久作全集1」や、
葦書房「夢野久作著作集」、オンラインでは「あおぞら文庫」からも読める。

内容は、とても久作らしい、悲しく、美しく、儚い童話だ。
モノクロの切り絵を、出版当時まだ存命だった龍丸さんと、
地元在住の切り絵画家の方とで、カラーで復元したものだ。
たいへん美しい。

が、今回、この絵本の奥付にある「戸田健」という名前に
ひっかかりを覚えた。ので、ちょっと調べてみた。

まず、あおぞら文庫の底本になっているちくま版には、
「戸田健は久作の別ペンネーム」とある。
これは、ずいぶん乱暴な解釈ではなかろうか。
なぜなら、戸田健という人は、久作の義妹の婿の名前だからだ。

そして葦書房版久作全集の解題によれば、
「ルルとミミ」は戸田健の作画ということになっているが、かなり久作が手を入れた、
そして、ストーリーは久作が創作した(クラ夫人の証言あり)、とある。
しかし、表に久作は決して出ないようにしたらしい。
それは戸田健に花を持たせたのではないか、といったような憶測が書かれてあった。
非常に久作らしいエピソードであり、改めて感心してしまった。

今日手にしたこの絵本は、ご子息である龍丸さんが監修しているが、
解説や推薦文には久作の作品という色が濃く、
戸田健をにおわせるものが全くない。
奥付と、久作が描いたとされる「とだけんさくぐわ(戸田健作画)」
というタイトルカットのみだ。
なのに、どの解説にも、誰が何を担当した作品なのかが明確でなく、
ただ、「夢野久作 ルルとミミ」とあるだけだ。

ここのところは、一ファンとしては非常に気になるところなんだけど、
戸田健がこの作品にどう関わったかの真実は、推測の域を出るものではない。
やはり家族の問題なんだろうな、と思った。

どちらにしても、この童話作品は完成度もなかなか高いと思うし、
だったらそれでいいじゃないか、とも思ったりした。

…あーあ、また趣味に激しく偏った日記を書いちゃったなぁ〜。
しかも、推測の域を出てないし。


※高値で取引されている古書が久作関連には多い。
絶版ではないにしろ、重版の見込みのなさそうな葦書房「夢野久作の日記」も含めて、
この「ルルとミミ」1979年度版絵本も復刊してほしいと願う。