原 久美子さんの思い出

原さんに出会った日に描いたスケッチ
この絵は、ジャズ・ボーカリストの原久美子さんに初めてあった日に
描いたスケッチの一枚です。
時は2003年4月12日、場所は横浜のライブ会場。
その頃、ミッキー吉野さんの音楽をイラストに起こすライブスケッチの
試みを始めたばかりで、津軽三味線とタブラとキーボードの演奏を
聞きながら、わたしはペンを走らせて「音」を「絵」にしていました。

そのときに、はじめて原さんに会いました。
原さんはわたしの隣に座っていました。
傍には盲導犬のキャシーちゃんがいました。
そのときは、わたしは原さんのことは知りませんでした。
あ、目の見えない方だ、と思っただけでした。

そして休憩中、原さんはわたしに
「なにをされているんですか?」と尋ねられました。
わたしはスケッチをしている旨を伝えました。
「へぇ〜、どんなの描いてるか、見せてもらえる?」

原さんは、そういって、わたしのスケッチブックを手にしました。
アシスタントの女性が、わたしの描いた絵にそって、
原さんの指をなぞらせます。

いま聞いたばかりの音。
このタブラの響きがこの丸。ああ、こんな感じね。
そしてキーボードの音がこのタテのライン、わかるわかる。
ぽーん!と波打つリズムが、このはじける様子。

一緒に、今聞いたばかりの、初めての音楽を
そのまま耳から入るままに線に起こし、
それを指でなぞりながらも、わたしは原さんと
もうひとつのセッションをしたような気がしました。

原さんがジャズシンガーであることを知ったのは、
ステージでミッキーさんが原さんのことを紹介したときでした。

ライブが終わって、しばし歓談の時がもてたとき、
わたしは原さんにこう尋ねました。

「…あの、手で直接なぞれるように、
たとえば線が盛り上がってるとか、そういう工夫ってあったほうが
よかったりしますか?」

すると原さんは、こう答えてくれました。

「うーん。そうとは限らないのね。
たしかに、そういうのもいいんだけど、
今みたいにアシストしてもらえればいいし。ね。

展覧会とかでは、人の目を通じたイメージを
コトバで伝えてもらうことで、新しいアートを感じることが
出来るからね。それでいいの。

ひとつのアートも、一緒に行く人によって、
いろんな解釈ができるのよ。それがまた、面白いの」


原さんは、その後、わたしが参加するグループ展に
何度か見に来てくださいました。
「アートは人生を豊かにしてくれます」と
感想をメールでくださいました。

また、わたしも原さんのステージを何度か見に行きました。
ソウルフルで、かっこいい原さんの歌声に
わたしもNORIちゃんも、すっかり魅了されてしまいました。


わたしにとって、原さんとの出会いは、人生においても
本当に大切なものでした。

そんな原さんの訃報を聞いたのは、17日のこと。
あまりにも突然でした。

会えば必ず「ゆーちゃん!」と声を弾ませて
握手をしてくれた原さん。
もう会えないなんて、信じられないけど。

わたしは、原さんにはじめて出会った日に
あんなセッションをしてしまったことを、一生忘れません。


ライブスケッチを、再開したいと思っています。