子不語の夢
江戸川乱歩と小酒井不木の手紙を収録した本。乱歩デビューから不木が没するまでのたった数年間の手紙のやり取りが収録されているが、それにしても乱歩はなんとまめな人であろうか。彼は不木から受け取った手紙をあますことなくファイリングしておいたらしい。この収集癖よ。几帳面さよ。一方、不木はといえば、手紙がずいぶん流出していたようで、今回この本が編まれた背景には、そういった状況を打破する目的もあったようである。不木書簡が乱歩よりも多いのは、乱歩が几帳面に手紙をとっておいたからと見て取れる。
この几帳面さと偏執的な性格は乱歩そのものだと感じた。江戸川乱歩とは、完全主義者で論客でビッグネームな上、自分自身に課する理想が甚だ高い人だった。乱歩にとって、周囲の評価とは裏腹に、発表する作品に心底から満足できずにいたのは、手紙のやり取りを見てもありありと伝わってくる。一方の不木から見たら、乱歩の持つ天賦の才に憧れと尊敬を抱いており、とにかく褒めちぎる。乱歩にとって不木は作家になるにあたって恩義ある先輩であり、かけがえのない存在であった。と同時に、かなり重かったろうなぁ。
不木はプロデューサー的な手腕を振るい、名古屋在住といったハンデを考慮しても周囲には人がたくさん集まっていたと思う。が、病身ゆえか寂しがり屋で、相当乱歩に気持ちを傾けていた。この温度差が切ない。最後が乱歩書簡で締められており、あて先は不木夫人である点も切なすぎる。
......といった感想を持ちえたのは、書簡の下に書かれた注釈のためであろう。この注釈がすごい! マニア的な視点でその時代背景を掘り下げ、人物像を浮かび上がらせる。注釈がこんなに面白い本はそうそうない。ホントカヨ!と読者として突っ込まずにはいられないような、ときに独断的な、往々にして客観的な解説には頭が下がる。
それにしても、付録のCD-ROM、すごいねぇ。すごいけど、できればこっちも本にしてほしい。高解像度で取り込まれた書簡や写真の数々、モニターで見るだけでは惜しい。乱歩の「貼雑年譜」と一緒に読むと楽しみ倍増の一冊。









