[個展準備]なんてったって、親切でなきゃいけないよ

初めて読んだヴォネガットは「スローターハウス5」だった。18か19歳だったと思う。おそらく、この小説の意味している深いところはほとんど理解できなかったと思うが(だからその後、20年来何度も何度も読み返しているのだけれど)、ヴォネガットに惹かれるものを感じた。2冊目を読んでみようと思い手にしたのが、多分「ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを」だったと思う。

主人公のエリオット・ローズウォーターは、大富豪の御曹司である。人びとの間に貧富の差があることに疑問を感じたエリオットは、富の分配が人びとを幸せにすると信じ、そして、それを実行する。彼のしようとしている慈悲深い行為が、崇高であると同時に、とても愚かしいことであることをヴォネガットは隠さない。ヴォネガットは、日本に住む19歳(ティーンネイジャーのラスト)の一少女に、「物事には常に相反する側面があること」を教え込むことに成功した。

とりわけ、私のお気に入りは、エリオットが言うセリフだ。エリオットが施しを続けているローズウォーター郡に赤ん坊が生まれ、洗礼を頼まれていることを妻に電話で告げるシーンがある。あなたはその赤ん坊にどんな言葉をかけてやるつもりなの?との問いに、そうだなぁ、こんな風に言うかな、とエリオットはこう話した。

こんにちは、赤ちゃん。地球へようこそ。この星は夏は暑くて、冬は寒い。この星はまんまるくて、濡れていて、人でいっぱいだ。
なあ、赤ちゃん、きみたちが この星で暮らせるのは、長く見積もっても、せいぜい百年ぐらいさ。
ただ、ぼくの知っている規則がひとつだけあるんだ。いいかい、-----

なんてったって、親切でなきゃいけないよ。


わたしはこの言葉が大好きだ。絵にするなら、絶対このシーンだ!と思っていた。「スローターハウス5」はヘビーな色使いになってしまったが、ヴォネガットはやはりアメリカの作家らしいポップな色使いが似つかわしい。特にローズウォーターさんはラストのオチが爽快だ(ちょっときれいなオチ過ぎるような気もするが)。ということで、この作品は、ぐっとグラフィカルで鮮やかな感じに仕上げてみた。