SはSFのS

Sparksのことを書いたらスグにこのエントリーも書こうと思っていたのに、仕事机周りを片付けだしたら全然終わらなかった。しかもまだ片付いてないし。年内に片付くのは無理かもしれない。とほほ。

ということで、今年の個展のテーマだったSF。元々、カート・ヴォネガットが好きで、そのヴォネガットが亡くなったのが2007年。追悼の意味も込め、今年の個展をSFにしようと思い立った。これまでは、そんなにSFを読んではいなかったけれど、一昨年に読んだ浅倉久志先生の「ぼくがカンガルーに出会ったころ」が契機となって、どの作家を攻めていったらよいかの目星がついたのがラッキーだった。そして、ちょうどよいタイミングで発売された河出書房新社の「奇想コレクション」や、国書刊行会「未来の文学」シリーズの存在がとても大きかった。

それまで、「ヴォネガットはハヤカワから出てはいるけどSFではない」とずっと信じていた。だけど、スタージョンやディヴィッドスンを読んで、その認識が180度転換してしまった。あの発想、あの切り口、あの展開をSFと呼ばずしてなにをSFと呼ぶだろう。宇宙船が出てきたり、ヒロインが出てくるだけがSFではない。例えば、広瀬正「マイナス・ゼロ」のように、ミステリの持ち味を十二分に発揮したSFの存在だって忘れがたい。この間口の広さがとてもいいと思った。気づくのが遅すぎたけど、気づけてよかったなぁと本当に思った。

個展に話を戻すが、2006年に開催した個展でも小説をモチーフにしていた。けれど、ジャンルがまちまちで、ターゲットがよく絞れていなかったように思う。今回はSFに絞って、しかもわたしの嗜好に偏ったセレクションになったが、却って目指す方向性がはっきりできたようにも思う。絵そのものよりも、チョイスした小説をほめられることもあった。それはまたそれで嬉しかったりする。

また、今年は早川書房さんとお仕事させてもらえる機会を初めて得たことが、本当に大きかった。今年は2回描かせていただき、1回目はS-Fマガジン 2008年8月号「SFマガジンギャラリー」の掲載だった。2色刷りの5ページ展開で、その号の特集テーマにあったイラストレーターをチョイスされている、と伺った。わたしが描かせていただいた号は「スプロール・フィクション」特集で、わたしの世界観に合うからということらしかった。編集部の方々がわたしの作品の方向性をよく理解してくださっているのが実にありがたかった。また、修正依頼にしても、どういう意図でこういう絵にしたかを説明すると、その主張をとても大切にしてくださったのに驚いた。普段、有無を言わせぬ修正変更が当たり前になっていて、こういう感覚がとても久しぶりだったので、いたく感激したことを思い出す。あの感動はなかなかない。「SFマガジンギャラリー」は残念ながら12月号で終わってしまったので、滑り込みセーフで機会を頂戴したことに感謝している。

北公園の犬

2回目はS-Fマガジン 2008年12月号 「ファンタジー小特集」の1編、キジ・ジョンスン著の「<変化(チェンジ)>後の北公園犬集団におけるトリックスター伝承の発展」の挿絵。犬をたくさん描いた。原稿を読んで、イメージを形にする。「本を読むのを仕事にする」をちょびっとかじったような、とても楽しい体験だった。小説が好きなんだなぁと改めて思う。雑誌に絵が載ることはそんなに大げさなことではないし、イラストレーターなら何らかの形で関わっていることではあるけれど、大事にしているSFの世界に、ちょっとだけでも関われたことが本当に幸せだと思ったし、明日につなげて行ければ......と思う。

読者賞さらには、第20回SFマガジン読者賞のイラストレーター部門を頂き、たいへん驚いた。これは、読者投票によって選ばれるもので、歴代の受賞者を見るとそうそうたる方々のお名前がある。わたし自身は、今年に入ってから、ようやく読者の方々にお目見えすることが叶ったような、いわば「新人」のようなもの。特に読者層の意識の高さはSFマガジンは群を抜いている。この受賞は、どんな賞よりも嬉しいと本当に思った。改めまして、ありがとうございました。

来年2009年は、この世界がさらに広がればとてもとても嬉しい。そのためにも、来年もたくさんよい本を読んで、いい作家さんのいい作品に出会っていけたら、最高に幸せだと思う。