パノラマ島綺譚

パノラマ島奇譚
※クリックすると、大きくみえます。

二人は、一方に於いて、限りなき愛着を感じ合いながら、
一方に於いては、廣介は千代子をなきものにしようと企み、
千代子は廣介に対して恐るべき疑惑を抱き、
お互にお互の気持を探り合って、
でも、そうしていることが、決して彼等に敵意を起こさせないで、
不思議と甘く懐しい感じを誘うのでした。

(江戸川 乱歩「パノラマ島綺譚」より)


2006年個展のために描き下ろしたオリジナルイラストです。

手に手をとって不思議な島を巡るふたり。
水中トンネルの外には人魚が泳ぎ、そうかと思う内に森が開け、
羊羹を切ったように完璧で美しい人工の岩肌には滝が落ち、
ドームの内側には空が描かれ、温泉には美女が...。

ここはパノラマ島。一人の男の妄想が形になった不思議な島です。

とある資産家の息子が死んだ報を受けた人見廣介は、
顔が瓜二つであることと、土葬の習慣がある事実を
巧みに利用することを思いつきます。
資産家の息子の生還に大騒ぎの村、喜びに沸き返る資産家の家族。
うまうまと成りすましに成功した廣介は、
資産をつぎ込んでパノラマ島の建築を決行するのでした。

ところが妻の千代子だけは、
夫が偽者であることを見抜いてしまいます。
廣介も千代子に悟られたことを知り、
もうこうなったら島に連れ出して殺してしまうしかない...
と決意します。千代子も不安と恐怖にかられながらも、
島に行くことを断る理由が口に出せず、
結局廣介の言いなりに...。

しかし、パノラマ島を巡るうち、
二人の心は次第に惹かれあってゆくのでした...。

「パノラマ島綺譚」の作者である江戸川乱歩は、
この奇妙な島の描写を書く事が、
楽しくて楽しくて仕方なかったそうです。
読者であるわたしは、奇妙でグロテスクな島をめぐる冒険の中、
二人が次第に惹かれ合ってゆく様が、なんとも愛しく感じました。
破滅に向かう恋だとわかっていながら、惹かれ合わずにはいられない、
人の心の不条理さ、切なさ...。
乱歩が楽しく書いたように、わたしも二人に愛情を込めて、
自由に楽しく、そしてちょっぴり切なく描き上げました。

最後は壮絶な大花火で終わるこの物語。
この惹かれ合う二人がどうなったのかは、
ぜひ「パノラマ島綺譚」を読んで頂きたいと思います。
ちなみに、一番右端上にいる、トレンチコートのナイフを持った
男の名は北見小五郎。明智小五郎を連想させる存在です。
(展示解説より転載)


パノラマ島ラフスケッチ

「パノラマ島綺譚」イラストのラフです。このラフも展示しました。
書き込みが細かいので、大きな絵を用意しました。
クリックでポップアップ表示します。


展示風景1

展示のときは、このイラストは4分割されていました。
出力サイズは、1/4でタテ90cm、ヨコ30cm。
相当大きなものだったのですが、4分割することで
一度に目に飛び込んでくる情報量が押さえられ、
落ち着いて見ることが出来る形態となりました。
描く時は、4分割することを前提に描いたので、
ラフではその分割ラインが描かれています。


展示風景2

正面から見たところです。


なんちゃってカバー

「なんちゃってカバー」です。
実は、展示会場にはなくて、後日、作品ファイルを作った際に作りました。


4334737331

光文社文庫「パノラマ島綺譚」江戸川乱歩全集第2巻に収録されています。